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2012年11月09日

「キャンセル」という言葉は、使い方を間違えると自分の品格を大きく落とす

毎日の生活において、よく使う言葉・よく耳にする言葉の一つとして「キャンセル」という言葉があります。例えば、レストランに事前に電話して予約を取り、後に、何らかの都合で行けなくなったとき、「…月…日の予約をキャンセルしたいのですが」という言葉の使い方をすることがあります。この使い方においては、海外、あるいは、日本における常識を鑑みたとき、何らの「不合理性」(irrationality)もありません。

しかし、次の場合はどうでしょうか。今、頭の中で想像してみてください。

あなたは現在、ある大学の大学院法学研究科で英米法を専攻する大学院生であると仮定します。ある日、通常講義とは別の時間に指導教授から特別の指導を受けるため、教授と面談の約束をしたとします。後に、時が過ぎ、面談を約束した日を迎えました。ところが、その日の朝に体調を崩し、指導教授の研究室に訪問することができなくなりました。この場合、あなたは、その日の朝に指導教授の家に電話し、「本日のお約束をキャンセルしたいのですが…」という日本語表現を使うでしょうか。

指導教授との約束に対して、「お約束をキャンセルしたいのですが…」という言葉を躊躇なく使う人の場合、その人の国際感覚はかなり貧しいと言わざるを得ません。いや、国際感覚というよりは、このような言い方は、一個の社会的存在者として「常識」(common sense)が欠如しているというべき言い方です。

アメリカでは、学生が教授のオフィスに訪問する際には、必ず、事前にアポイントメントを取ることが慣習となっています。私自身、アメリカの大学で教鞭を執っていた頃、アメリカ人の学生が、”I’d like to cancel our appointment we made.”という表現を用いることは一度たりともありませんでした。もし仮に、そのような表現を用いる学生がいたとしたら、それはまさに「愚の骨頂」そのものであると言わざるを得ません。言うまでもないことですが、このような言葉の使い方をする学生からは、「学問を学ぶ者としての『謙虚な姿勢』『厳格な姿勢』の”欠片”(ounce)」も感じられません。

そもそも、英語のキャンセル(cancel)という言葉の意味は、「取り消す、中止する、無効にする」等の意味を成します。英米、あるいは、世界の文明社会では、学問の師との約束に対して、「キャンセルしたいのですが」という表現を使うということはまずありません。この「キャンセル」という言葉、…実のところ、この言葉は、「世界の教養人・文化人においては”かなり無礼な言葉”として捉えられている」という事実を日本の人々は知るべきでしょう。

本稿において読者の皆さんにご提案したいことがあります。それは、皆さんが他者と面会の約束をし、その約束を実行できない状況におかれた場合には、「本日のお約束はキャンセルしたいのですが」という表現は、可能な限り使わないようにするということです。この場合、例えば、相手に対して「本日、都合でお伺いできなくなってしまいました。もし宜しければ、また、別の日時にお時間をお作りいただけないでしょうか」という表現を用いると、相手の感情を害することはないでしょう。

キャンセルという言葉、日本の人々は便利に使っている言葉ですが、実際、この言葉は、相当、「使い方に注意を要する言葉」です。英語を知っている人の場合、キャンセルという言葉が持つ「強い意味」「無礼な意味」について敏感に感じ取ることができますが、英語を知らない人の場合は、「この言葉が相手に感じさせる不快感・無礼さ」について感じ取ることは難しいでしょう。

この問題について厳格な立ち位置から述べるならば、日本の人々は、「日々の日本語会話において、英語の言葉を安易に使う習慣を見直すべきである」と私は考えます。言葉は、それを使う本人の「鏡」です。他者に対して言葉を発するとき、聞く人が聞いたら、使い手本人の「品格」「見識」が疑われることになります。

生井利幸

生井利幸

生井利幸なまいとしゆき

生井利幸事務所代表

「ビジネス力」は、決して仕事における業務処理能力のみを指すわけではありません。ビジネス力は、”自己表現力”であり、”人間関係力”そのものです。いい結果を出すビジネスパーソンになるためには、「自分自身を…

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