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2009年12月10日

「痛み」の価値

先日、3日間、京都に滞在し、比叡山・延暦寺にてゆっくりと時間を過ごしました。延暦寺は、平安時代初期、日本仏教の礎を築いた最澄(767-822)によって開かれ、日本の精神文化の発展に多大な影響を及ぼしてきた寺として広く知られています。

2009年の終焉を迎えるこの時期において、延暦寺の根本中堂にて正座したとき、私は、凍えるほどの寒さを経験したのと同時に、”生きる”を全うする上においての「大切な気づき」を感じることができました。

「大切な気づきを得る」、……そのためには、暖衣飽食の環境に身を置くのではなく、心身共に、「何らかの痛み」を経験するということが必要不可欠であるとしみじみと感じます。今、私自身、この「痛み」という言葉をじっくりと考えるとき、私の脳裏には、ドイツの大哲学者、ニーチェの顔が浮かんできます。

ニヒリズムを提唱した19世紀後半のドイツの哲学者、ニーチェ(Friedrich Wilhelm Nietzsche, 1844-1900)は、「人間は、まず第一に自らの本質を問い直し、厳しい現実を直視し、その上で自分自身の力で逞しく生きなければならない」と唱えました。

ニーチェは、19世紀後半期において、自らの命を削って、”思索不在の西洋文明社会”に対して<警告の鐘>を鳴らした偉大な哲学者です。ニーチェは、当時、”活字の力”で、既存の宗教観・価値観・思想に支配されていた人間社会に対して<警告の鐘>を鳴らし、「人々よ、今こそ目を覚ませ。今こそ、自分の力で思索し、自分自身の足でしっかりと歩け!」と、命をかけて唱えました。

「警告を鳴らすには痛みが伴う」、……逆に言えば、「痛みを通過することなく警告は鳴らせない」というこの様相は、西洋でも東洋でも同じです。

1)「何らかの本質を述べる」、あるいは、2)「ものを生み出す(独自の商品・サービスを提供する)」という行為を行うとき、その行為者は、その一連のプロセスにおいて「それなりの痛み」を経験します。逆に言うならば、痛みを味わうことなくして、本質を述べることも、ものを生み出すこともできません。

あまり気持ちのいいお話ではありませんが、私は、一般書店に行くと、しばしば吐き気をもよおすことがあります。どのようなときに吐き気をもよおすのかと言いますと、特に、「これをやれば簡単に成功できる」「簡単に…ができる」といった、”ある種のeasy way”を述べる本が並んでいるのを目にしたときです。

冷静になって考えるとわかることですが、この世に、「簡単にうまくいく」「簡単に成功できる」という仕事・ビジネス、あるいは、学習方法はありません。一定期間において自分なりの成果・結果を出すには、その過程においてそれなりの苦悩や痛みを伴うのが世の常であり、これはまた、”自然の摂理”でもあります(簡単にできることは、”簡単に”崩壊もします)。一般にいえることですが、本のタイトルがそのようなタイトルになっているのは、単に本を売るためであって、「読者に対する真の愛情」からではありません。

「痛みは、学びの母である。だから、痛みは、お金を払ってでも経験するといい」、……私自身、これまで世界中の人々と接してきた経験から、このことは、まさに真実であるということを切実に感じます。

2009年も終焉を迎えようとしている日本経済。社員と共に、より良い2010年を迎えるべく最後のエネルギーを振り絞って頑張っている経営者の皆さんの顔の表情は、まさに、「”痛み”を背負った顔」といえるものです。

会社の発展に命をかける経営者の皆さんが背負う「痛み」。この「痛み」は、そう遠くない将来において、必ずや、現在のビジネスをさらに発展・成就させるための「貴重な糧」となるに違いありません。

「痛み」、それは、”偉大なる学びの母”そのもの。すべてのビジネスにおいて言えることですが、痛みを経験する人間こそが、地に足の着いた方法で着実にビジネスを展開させ、自らの会社を発展させ、ひいては、社会やコミュニティーに対しても幸福を齎すことができるのだと考えます。

生井利幸

生井利幸

生井利幸なまいとしゆき

生井利幸事務所代表

「ビジネス力」は、決して仕事における業務処理能力のみを指すわけではありません。ビジネス力は、”自己表現力”であり、”人間関係力”そのものです。いい結果を出すビジネスパーソンになるためには、「自分自身を…

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