先日、女優の小山明子さんと一緒に仕事をさせていただくチャンスがあった。彼女は、夫で映画監督の大島渚氏を介護しているうちにうつになったらしい。でも、「女優・小山明子を手放した時に、『うつ』から脱出するきっかけをいただいたの」と、おっしゃった。
そして、こんなことも話してくださった。「女優の小山明子なら周囲を意識して行けなかったスイミングスクールも、”大島明子”で行ったの。最初は、誰もわたしを女優の小山明子だとは思わなかったのよ。でも、泳いでいるうちに気分が晴れてきたの。スイミングスクールのおかげで、うつからの脱出するきっかけをもらったの」。
女優を手放しての介護の話など、しがみつかないで、「手放す」ことの大切さをいっぱい語ってくださった。
最近、久しぶりに「関西商魂」などの著者で、ジャーナリストの中森勇人さんと話をした。彼のことは、3年以上も前の彼がサラリーマン時代から知っていたけれど、本当にすごく素敵に変わっていた。
彼のデビュー作は、彼がリストラに対して会社と闘った500日を書いた、『辞めてはいけない』で、わたしが、初めて出会った時は、まだサラリーマンで作家だった。「あんなに、会社を理不尽に辞めさせられるのが嫌で、リストラと闘った僕ですが、会社を手放したんです。そしたら、本当にやりたかったジャーナリストとしての仕事がいっぱい入ってきて、本当に楽しいんです」と、彼が言った。
続けて、「手放す」という言葉を聞いたわたしは、いろんなことを振り返った。そう思うと、わたしもいろんなものを手放してきた。
27歳の時に立ち上げた企画会社。わたしの青春だった吉本興業という会社。見栄とか、大風呂敷なんていうのも手放してきたかも。でも、そのたびに何か新しいものが手に入った。当たり前のことだけれど、手放さなければ新しいものは、入ってこない。
昨年、東京に引っ越してきた時に、「しがらみ」を手放した。どうしても自分から断れなかった仕事、「自分じゃなきゃダメ」と、勝手に思い込んでいたお客さん、手放す時は、とっても勇気がいったけれど、手放してしまえばどうということなかった。仕事も人もちゃんと別の人がやっているし、誰も困っていない。そして、手放した分だけ、わたしは、新しい人脈と、新しい仕事が入ってきた。
それでも、まだまだ手放せないものっていっぱいある。お金だってほどほど欲しいし、おいしい店にも行きたい。そんな邪念は、山ほどある。そんな時に、健康診断に引っかかった。一瞬よぎった「命の危機」という言葉。「手術」なんて言葉を聞かされただけで、めちゃめちゃブルーになった。結果、何ともなかった。でも、この時、真剣に思った。「命があるなら、多少のものは手放したって怖くないやん!」と。
心の健康と体の健康、それがあれば、何とでもなる。そして、「笑い」があれば最高。そう思うと、本当に大切なものだけが見えてくる。いつも自分で言っているように、「持って死ねるものなんて何もない。残せるものって、『生き方』とか『志』」。
この機会に、手放せないでいるものって何かをよく考えてみると、自分がよく分かる。わたしだって、まだまだ手放せないものもいっぱいある。でも、いざという時に手放せる覚悟ができているかどうかって、とっても大切。
大谷由里子おおたにゆりこ
(有)志縁塾 代表取締役
故横山やすしさんのマネージャーを務め、宮川大助・花子、若井こずえ・みどりなどを売りだし、一時は“伝説のマネージャー”として騒がれた大谷由里子氏。その後もベンチャー企業の社長やフリーのプロデューサーとし…
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