まず、一回目のトライは失敗。しかし、諦めずに訓練を続けました。数ヵ月後に再度チャレンジです。腕に力をつける為、錘を引いたり、坂を登ったり。一生懸命頑張りました。そして、そんな訓練も数ヶ月が経ち、二回目のトライになりました。しかし、あまりハンドル廻しにはさほどの変化はなく、心だけが焦りを感じていました。
試験場へ行くと前回と同じ検査官。
「やぁどう?」
私を覚えてくれていたようです。同行した作業療法士に試験用の運転席に座らせてもらい、ハンドルにノブを取り付け右手をはめます。
「じゃあ右に廻してみて」試験官が合図します。
私は頭を振り、身体を倒しながら懸命にハンドルを廻そうとします。
(おっ重い・・・)「んんん・・・」沈痛な面持ちで試験官が見つめます。
「次は左に廻して・・・」試験官の言葉が部屋に響きます。
検査が終わりました。試験官が呟きます。
「ダメだなぁ。これだと免許あげられないよ」
検査官の言葉が私の心に虚しく響きます。
「ハンドルが廻らなきゃ無理だよなぁ」
検査官が続けました。そうです。今回もハンドルが廻らないのです。力は付いたはずなのに・・・。しかし、力というよりハンドルを廻す方向へ腕が動かないのです。
(ダメだ・・・)
心の中で焦りだけが積もります。再び訓練あるのみです。
(頑張るしかないなぁ!・・・)
焦りだけが前に進みます。しかし、心とは逆に相変わらずハンドルは廻りません。そんな事をしているうちに月日は流れます。当初よりはハンドルが廻るようになりましたが、試験場のハンドルが廻るかは分りません。そんなある日、作業療法士が切り出しました。
「濱ぁ そろそろまた入ってみるかぁ」
私としては自信がありません。作業療法士もそれを知っています。しかし、お情けなのでしょうか。作業療法士は試験の日を決めました。
再再度、試験の日になりました。施設が用意した送迎車に乗り込みます。私は試験場へ向かう車の中で色々と考えていました。実は私の中では今回も無理だと分っていました。ぼんやりと車窓から景色を眺めています。いつしか季節は冬に変わり、雪がチラついてきました。
「帰りは積もるかな」
作業療法士が運転手と会話しています。
私は、ぼんやり景色を見ながら聞いていました。そうこうしていると試験場に到着し検査官が来ました。
「やぁ~また君かぁ」
私の顔を覚えているようです。そう何度も来る人がいないのでしょうね。私はいつものように検査用の座席に乗せてもらいました。
「じゃあやってみよう!」試験官が合図します。
結局、結果はダメでした。
「濱宮くん。もう君諦めたほうが良いよ。無理だよ。」
試験官に説得されます。検査室のハンドルを廻せない私は言いました。
「お願いです。もう一度、もう一度だけお願いします。自分で車を買います。その車しか乗りません。その車で試験をさせて下さい。お願いします。」
私は必死に懇願しました。
「分ったよ。じゃあもう一度だけ、次が最後だよ」
そう言い残し、試験官は部屋から立ち去りました。
第21話完
濱宮郷詞はまみやさとし
コラムニスト
「何故、自分だけが、寝たきりに・・・」 毎日、死ぬ事ばかり考えていた。 そんな時、あなたと出逢い、あなたがそばに来てくれた時、生きる事に決めたんだ。 あなたが与えてくれた命。目の前には「無限の可能…
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