調理の工夫で飲み込みも楽に
毎年お正月になると高齢者がお餅を喉につまらせる事故が起きています。
この要因として、高齢になると「摂食・嚥下(せっしょく・えんげ)障害」になる可能性が高くなることが挙げられます。
摂食・嚥下障害とは、食べ物を認識して口に運ぶ→噛む→飲み込むという一連の動作が困難になることです。
脳卒中の後遺症によって飲み込みが困難になる人もいます。
以下のような状態にあてはまる場合は、その可能性があります。
○食事中にむせる(汁物でむせやすく、飲みにくい食べ物がある)
○食後、口のなかに物が残っている
○食事に時間がかかる
○食べ物をこぼす
○食後にせきこんだり、声がかすれたりする
○普段から唾液がたまったり、垂れていたりする
家族のなかに最近むせやすくなったという人がいる場合、調理法を工夫することでスムーズに食べられることがあります。
ごはんであればおかゆや麦とろ飯、パンならフレンチトースト、卵料理であれば茶碗蒸しやふんわりしたオムレツなどもいいでしょう。
ホワイトソースやあんかけは活用することで食べやすくなりますし、例えば高齢のご家族にはクリームシチュー、若い世代にはフライにホワイトソースをかけるなど、アレンジできるため、作りおきして冷凍保存しておいても便利です。
また、かみづらくなってきた人には、煮込んだり、しょうが汁につけてやわらかくする、蒸す(もしくはレンジで温める)、細かく切るといった工夫で食べやすくなることがあります。肉や魚は肉団子やつみれにすると皮や骨をとる手間が省け、食が細くなりがちな人でも量が多くとれます。
食後のひと手間が明暗を分ける
一方、摂食・嚥下障害の可能がある場合、食前に頬の体操(左右の頬を交互ふくらませるなど)、口唇の体操(口唇を尖らせる→横に広げるを繰り返すなど)、上半身の体操(首をまわして首の筋をのばす、肩を上下に動かすなど)などを行うことでスムーズに食べられる効果があります。
ちなみに、私が祖母の介護をしていたときには、これから「食べる」という意識をもってもらうため、食前に祖母の好きなアイスクリームを2、3口食べてもらいました。これは、冷やした綿棒などで口の中を軽くマッサージする「アイスマッサージ」が飲み込みの反射や誤嚥(食べ物などが誤って肺に入ること)の予防に効果があることを知り、我が家流にアレンジしたのです。
祖母はベッド上から起きあがれない状態でしたが、食事をするときにはできるだけ車いすに座るか、ベッドの背を上げて(角度は30度または60度くらいが望ましい)食べてもらいました。
食事の介助が必要な人に、介助者がスプーンを口に運ぶ場合、上から行うと要介護者の顎が上がって食道の入り口が狭くなり飲み込みにくくなりますので、要介護者の目の高させスプーンを水平にして口に運びます。
我が家では食べこぼしてもすぐに水洗いできるエプロンなど、市販の福祉用具のほか、100円ショップで売られているような網目のマットを食器の下に敷いて滑らないようにする工夫をしていました。
最近は食事の介助の際に役立つさまざまな福祉用具が出ています。
祖母は食べることが好きな人でしたから、食事が困難になっても、たまにアイスクリームを口に含んでもらうなどしていました。
「その一口」で要介護者は笑顔になれるのです。
最後に忘れてはならないのが、食後のお口のケア。我が家では、粘膜や歯茎の汚れを落とすスポンジや、舌の表面をきれいにするブラシなども活用していました。
口のケアを行った高齢者とそうでない高齢者を比較すると、口のケアをした人のほうが肺炎や発熱の発症率が低く、さらに認知機能についても低下していなかったという結果が出ています。
高齢になってからも食生活を楽しむには、食後のケアまで気を抜かないということも心がけも大事なのです。
小山朝子こやまあさこ
介護ジャーナリスト/介護福祉士
9年8カ月にわたり洋画家の祖母を介護。その経験から全国各地で講演し、執筆活動や各メディアにコメントする。介護のノウハウや介護現場の「今」をわかりやすく伝えており、「当事者と専門家、ふたつの立場からの説…
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