「ひとつひとつ」が解決につながる
「最近、専門家などから”頑張らない”という言葉を聞くが、家族にとっては綺麗ごとに聞こえる」。
講演の際、70代後半くらいの男性の方からこんな意見がありました。じつは、私自身も介護をしているときは「頑張らない」の言葉に反感をもっていました。
医療や介護の専門家、介護をしてきた経験がある人には、「では、どうすればよいのか」を具体的に示すことこそが求められています。
「親が突然入院する事態になり、混乱していてどうしたらよいかわからない」。ある雑誌で取材を受けたときに、記者の方からこう打ち明けられました。
「あれもこれもしなければと考えるのも無理はありませんが、一度にいくつものことはできません。”ひとつひとつ”ですよ」と私は申しあげました。やるべきことを箇条書きにするだけで頭の中が整理できます。
講演でも「ひとつひとつ」だとお話すると、業務に追われるケアマネジャーの方などは大きく頷いています。
家族が入院中の場合、「地域医療連携室」や「医療相談室」などを設けている病院があるので、相談したり、話を聞いてみましょう。入院後、在宅介護を検討している場合、「地域医療連携室」では地域の診療や介護事業所などと連携をはかって退院の調整にあたる役割を担っています。「医療相談室」には、たいていMSW(メディカルソーシャルワーカー)と呼ばれる相談員がいます。
さらに、介護保険で利用できるサービスや地域の事業者の情報を知りたいときには、お住まいの市区町村の窓口に出向くと、サービスなどについてわかりやすく紹介された冊子などが置いてありますので、手元においておくと後々役立ちます。
そのほか、お住まいの地域にある「地域包括支援センター」には、社会福祉士や保健師、ケアマネジャーといった専門職がいて相談に応じてくれます。「社会福祉協議会(社協)」では、ボランティアの情報や福祉用具のリサイクルなどの情報を提供しているところもあります。
困ったら、誰かに口にしてみる、動いてみることで、解決の道が開かれてゆくことがあるのです。
介護を終えて初めて実感した「頑張らない」
講演でお話する具体的な情報は、すべて私自身の9年8カ月の試行錯誤による体験に基づいています。
介護を終えた家族は、どんなにどんなに頑張って介護をしても、いや、頑張った家族ほど、もっと頑張って介護をすべきだったのではないか」と自分たちを責め続けるケースがあるようです。私も介護中にしてしまった失敗などを思い出し、今でも悔いることがあります。
そうしたストレスもあり、今度は私自身が大きな病気になりました。こうした経験から、私は今、「頑張らなくていい」との言葉に自分が慰められ、ようやく実感を伴って、その言葉を講演で伝えられるようになりました。
私がこうした体験をお話することで、祖母の魂は生き続けるのだと信じています。
小山朝子こやまあさこ
介護ジャーナリスト/介護福祉士
9年8カ月にわたり洋画家の祖母を介護。その経験から全国各地で講演し、執筆活動や各メディアにコメントする。介護のノウハウや介護現場の「今」をわかりやすく伝えており、「当事者と専門家、ふたつの立場からの説…
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