結婚して20年になる。世間ではいろいろな事件が起こり、そのめまぐるしさには本当に驚かされるが、その間、私たち夫婦は相変わらず喧嘩をしながら仲良く暮らしている。
ノブ(夫)は今でも「献身的なご主人ですね」とよく言われる。実はそれは誤解なのだけれど、彼は単純に「いい人」と思われるだけで喜んでいるし、私もあえて反論はせずに笑いながら聞き流す。もしノブ自身が「献身している」などという気持ちだったら、とても今日まで長続きしなかったはずだ。私たちは限られた中で情報を集め、快適に過ごせるよう工夫しながら、当たり前の夫婦の生活を楽しんでいる。
いつもお互いの顔を見つめながら生活していたらきっと息が詰まっていただろう。向き合って生きるのではなく、肩を並べてふたりの視線の先にある夢を一緒に追いかけてきたように思う。
昨年はアテネの年。私は射撃で出場をした。成績は誇れるものではなかったが、世界中の素晴らしい選手と同じ土俵に上がって、時間を共有できたことを本当に幸せに思う。
エアライフル射撃はほかの選手と対戦して勝ち抜く勝負ではなく、制限時間中に10メートル先にある1ミリの黒点を狙って60発を一人で撃つ。どこに行っても、どんな試合でも標的と銃と自分の関係は変わらない。それは自分自身の戦いであり、自分自身との対話なのだ。
60発の結果をトータルの得点で考えるのではなく、一発一発集中して、最後まで丁寧にあきらめずに撃つこと・・・射撃にかかわらず、私は今までもそうやって自分のゴールを手にいれてきた。
他人を羨むのではなく、なくしたものを悔やむのでもなく、自分の体に残された機能、つまり考えることのできる「頭」を使い、動かせる「腕」を人一倍鍛えることによって、人生を切り開いてきた。
元気なとき、若かったころは、人生は永遠に続くものだと錯覚していた。
人は一日一日成長するが、それは人生の有限な時間の中で確実に死に近づいている。
普段の私は死を覚悟して生きたりはしない。だから生活に何の関係もない射撃に一喜一憂したり、仕事でも悩んだり喜んだりしながら日々を送っているのだ。
この原稿もそうだが、あらためて自分の人生を振り返ったり見つめたりする機会があると、
人生の「有限な時間」について考えさせられる。
人生を語るにはまだ、未熟な年齢ではあるけれど、これからも一生懸命生きていれば、きっと何かが見えてくるのだろう。その何かを見たいから私は今を生きる。悩みながら年を重ねていく。
鈴木ひとみすずきひとみ
バリアフリーコンサルタント (UD商品開発とモデル)
1982年ミス・インターナショナル準日本代表に選出され、ファッションモデル等として活躍するが、事故で車椅子生活に。自殺を思うほどの絶望の淵にいたが、恋人や家族の愛に支えられ生きる希望を見いだす。障害者…
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