トランプ大統領がアメリカ第45代大統領に就任してから約1年が過ぎました。メキシコとの国境の壁建設やオバマケアと呼ばれるアメリカ版国民皆保険制度の代替案作成など、選挙公約で掲げていた政策の履行が有言実行とは言い難い現状にトランプ大統領自身が不満を抱いてきました。この政策不履行の結果にはトランプ大統領の意志に反し、世界の国々は逆に歓迎、肩をなで下ろしているというのが現実なのかもしれません。そんな中、トランプ大統領が同じく公約にあげていた国際管理下にあるはずの聖地エルサレムをイスラエルの首都とする発表を昨年末行いました。
聖地エルサレムにはユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地が重なるように存在しており、国連によって国際管理下に置かれる決まりが履行されるはずでした。しかし現状はイスラエルが第三次中東戦争によって実効支配下に置いており、イスラム教徒であるアラブ諸国、特にこの土地で暮らしてきたパレスチナ人にとってはエルサレムを将来のパレスチナ国家の首都に定めることが悲願となっていました。東エルサレム・旧市街と呼ばれる場所にはユダヤ教徒にとってはユダヤの神殿の一部が残る嘆きの壁、イスラム教徒にとっては預言者ムハンマドが天へ飛び立った時の足跡が残る岩のドーム、キリスト教徒にとってはキリストの墓である聖墳墓教会と1km四方のエリアに聖地が点在しています。
国連は第二次世界大戦以降、この聖地エルサレムを国際管理下に置く方針をとってきましたが、1948年にイスラエルがこの地に建国されると、同じくこの土地で暮らしていたイスラム教徒であるパレスチナ人、アラブ諸国がイスラエルに対して武装蜂起、第一次中東戦争が勃発。これまで4度の中東戦争が繰り返され結果としてイスラエルが勝利し、エルサレムを実効支配下に置いてきました。その後も中東和平へのロードマップを世界中の国々が支援し、パレスチナとイスラエルの2国家による共存を目指す方針を進めてきました。エルサレムは国際管理下にあると認識しているからこそ、世界各国は自国の大使館をエルサレムではなくイスラエルの建国宣言がなされたテルアビブに置いてきました。
そんな中、昨年の12月にトランプ大統領がエルサレムのイスラエル首都承認発言、さらにアメリカ大使館をエルサレムに移すことを発表。中東問題や世界情勢を無視するかのように選挙公約を履行しました。アメリカのユダヤ教徒、キリスト教保守派はトランプ氏を支持。今後エルサレムをめぐるトランプ大統領の支援を受けるイスラエルとアラブ諸国、特にイスラム過激思想を持つ連帯組織が衝突する可能性が高まっています。数十年前の中東情勢とは異なり、現在はアラブ諸国の中でもアメリカと連帯を組む国々が存在し、一概に即戦争勃発へとはすすまないと想定されます。それでも、テロではなくジハードという聖戦を訴える武装組織が存在力を増してくる可能性があり、トランプ大統領の決断は中東問題の核と言えるパレスチナ問題に再び火をつけたといえるのかもしれません。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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