中国南西部に位置するチベット自治区。このチベット一帯は標高が高く、自治区首府であるラサという町は、富士山の頂上とそれほど変わらない高さに街がつくられていた。一帯には5000m級の山々が連なっており、地球最後の秘境と名前が付けられる通り、その大自然は美しく雄大、絶景が延々と広がっていた。チベットの北方と東方にはかつてのシルクロードが弧を描くように続いていた形跡が残り、東西行商の風習や文化がチベット側にも流れ込んでいた。シルクロードは別名 “麺ロード”ともよばれている。日本に伝わった麺の食文化は、現在のチベットにも派生していて、街中で子供たちがうどんを食す光景に麺つながりをかいま見れる。チベット式うどんの名前はトゥクパといった。
日本でおなじみのうどんも国境をこえるとその調理方法も味も異なっていた。すべて手作り、小麦粉から麺を打ち込んでいき、裁断して、ゆであげていく。味付けはさっぱりとしているが、チベットならではの激辛唐辛子ソースを好みに応じて投入していく。チベットの子供たちにとってトゥクパは大好物。お母さんが麺を打ち始めると子供たちは母親をとりかこみ、トゥクパ作りを手伝う。家庭ごとにトゥクパの調理法が代々引き継がれていて、その味はチベット版おふくろの味として大切な食文化となっていた。チベットの山村に暮らす母親たちはチベット寺院に連日足を運び、五体投地と呼ばれる地面に体を何度も伏せ参じる礼拝を繰り返す。そしてチベット寺院に付随した台所で地域の子供たちにトゥクパをつくることが生活のリズムでもあった。チベットでは、家族、域のつながりが強く、トゥクパを皆で食することが幸せな光景、どの家庭でもトゥクパと笑顔があった。
チベット宗教指導者ダライラマ14世の存在を筆頭に今、世界の目はチベットに向いている。そんなチベットの方々の生活の基本は清貧の思想、伝統と慣習を守り、家族や地域のつながりを大切にしていく。どの国でもその国の食文化に触れてみると、生活基盤がはっきりと見えてくる。家庭の味を探索することが、その国を知る一番の近道と言えるのかもしれない。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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