中東ヨルダンにある世界遺産ペトラという遺跡には岩肌を利用して建造された遺跡がいくつも点在している。
映画インディージョーンズでの撮影舞台としてこの遺跡が使われたこともその名を世界に轟かせた。乾燥した土漠の一帯に突如現れる巨石群、その合間を細長い河のように歩道が奥へ奥へと続いている。その世界遺産のなかで少年たちは、口をとがらせてしわがれた口笛を吹きながらラクダを歩かせたり、座らせたり、さらには走らせたりしていた。その姿はまさにラクダとの会話を楽しんでいるようでもあった。彼らの仕事はラクダ使い、少年であっても立派に仕事をこなしていた。
驚異の絶景が広がるこのペトラで、地元の少年たちは日々仕事に明け暮れていた。この遺跡群のなかであってもラクダを乗りこなし、ロバを自由気ままに操ることのできる若者たちは限られている。生活のための収入を得るためには机上の勉学だけではなく、ラクダに乗ってひたすら手綱の訓練を続けていく。父親の代から続くラクダを操る技術と会話をするための口笛の技は、立派な職人技であると誰しもが誇りをもっていた。
具体的にラクダ使いの少年たちがどのように収入をえていくのか? それは観光客からのチップ。広大な世界遺産ペトラの敷地の中を、ラクダやロバにお客さんを乗せて目的地まで移動していく。通訳やガイドとしてペトラ内部を案内していき、終点で運賃とチップを手にする。特にこのチップという存在が少年たちにとって最重要課題であり、いかにサービスよくラクダを操ったかでそのチップの金額が大きく変わってくる。少年たちはチップで家族の生活費をささえていた。
立地条件や伝統技術で仕事の可能性が無限大に広がっていくことをペトラの少年たちから教わることとなった。世界にはいろいろな仕事が存在することに改めて驚かされた。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…