世界中の国々で取材している時には、現地のバスやタクシーで移動していきます。どの国でも道路が日本のようにアスファルトがしきつめられていることは稀で、泥や石、赤土の道を突き進んでいくことが普通であります。そうした場所でスコールと呼ばれる土砂降りの雨に遭遇すると、否応に道は滝のように流れる雨水でぬかるみ、そして遮断されてしまいます。山の中で足止めが何日も続くことがよくありました。
そんな折、一人で呆然と立ち尽くしていると、必ずどこからともなく村の子供たちが姿をみせはじめ、挨拶をしてくれます。挨拶をかえすと握手をします。するとあちらこちらから次々と子供たちの友人や若者たちが姿を見せ始め、遮断された道の石や泥を取り除こうと誰しもが一心不乱に土砂をかきわけてくれます。小さな子供たちが元気一杯に道を塞ぐ障害物を次々と力をあわせて取り除いてくれる。見ず知らずの日本人カメラマンのために手をさしのべてくれる。
感極まる想いで子供たちの勇姿に目を奪われることが世界中で何度もありました。困っている人たちにごく自然に手をさしのべること、あまりにもその手助けが普通のこととして行われていることに、深く頭が下がりました。
厳しき生活環境のなかであっても、相手の声をきき、手をさしのべ、寄り添っていく。力をあわせて生きぬいていく絆がしっかりと根付いていました。
日本から飛行機で約7時間の場所にあるインドネシアでの取材中にも雨による土砂で道が塞がれてしまいました。すると世界中で目にした光景が姿をみせました。山で暮らす子供たちが次々と姿を見せ始め、状況を確認するとみなで岩や土を取り除き、最後は車を手で押し上げてくれていました。行き交う車それぞれを誰しもが泥だらけになって押していく。その光景に胸が激しく揺さぶられました。ごく自然に発せられる子供たちのやさしさや思いやり、その行動力に改めて子供たちの勇気と希望を感じざる得ませんでした。取材とは必ず現地の方々に助けがあることで成り立っていくものであると痛感しております。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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