西アフリカ、ガーナにある小・中学校は森の中にあった。長屋のような校舎から歓声が聞こえてくる。近づいていくと教室の窓から緑色と薄茶色のお揃いの制服をきた子供たちが元気一杯に「good morning!」と話しかけてきた。
もともとこの森の中には学校は存在しなかった。ガーナでは子供たちは勉強よりも農作業を手伝うことが大切な仕事であった。水道もガスも電気もない森の中では子供たちが両親の手伝いをすることは当然のことであり、必要な労力であった。
それでも森に棲む子供たちは、都市部の学校に通う同世代の子供たちがお揃いの制服をきて通学している姿にあこがれを抱いていた。「私もいつかあの制服をきて学校に行きたい!」森の子供たち誰しもがもつ夢のまた夢であった。
転機が訪れたのは最近のことだ。世界各国から集まったドネイション(教育募金)がここガーナに届けられた。そこには日本から集められた献金も多く、ガーナの教育促進に大きな原動力を寄与していた。
まずガーナでは森にすむ子供たちのために学校の校舎を建てた。次いで教科書、ノート、鉛筆を用意した。さらに子供たちの夢であったお揃いの制服を各家庭に配布することができた。
「学校に行ける!」
子供たちは真新しい制服を着て、ハツラツとした表情で登校する。新しい鞄には鉛筆とノートが奇麗に入れられている。長椅子に座り、机に教科書を広げる。先生の声に耳を傾け、真剣な表情でペンを走らせる。先生が質問すると、我先に手を挙げて大きな声で答えを述べる。教室は活気に満ちあふれている。学校に行くことが嬉しくて仕方が無い様子が強烈に伝わってくる。
子供たちに聞いてみた。「将来は何になりたい?」どの子の答えも決まっていた。「学校の先生になることです。」
ガーナの教育環境は整いつつある。この子供たちが大人になった時、本当に学校の先生となり、次の世代の子供たちに勉学を教えていくことになるのであろう。
ガーナの森に教育がやってきたのである。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…