2021年1月20日、アメリカ政治はトランプ大統領からバイデン新大統領にシフトします(原稿執筆時)。大統領選挙戦での不正を訴えるトランプ氏は、自らの支援者に向けた過激な発言を繰り返し発信するも、バイデン新大統領による敵も味方も含めた多様性を引き戻す冷静沈着な言動に新政権への期待が高まっています。バイデン新政権における閣僚の顔ぶれには、これまでのアメリカ政権では初となる登用が目を引きます。ヒスパニック系・アフリカ系・アジア系を含めた閣僚人事は、国際政治に向き合うダイナミックな意気込みが感じ取れます。アメリカの新政権の動きによって世界情勢が大きく揺さぶられることは避けられません。バイデン大統領の語る多様性という言葉の基盤には必ずアメリカの国益を最優先した上で、という前提が存在します。かつての世界警察という自負ではなく、アメリカ国内を優先しながら多国籍外交のバランスを揺れながら保っていく、そんな政治姿勢が見え隠れしています。外交でのちぐはぐなグレーゾーンを広げず、的確に交渉指針を突きつけていくことが想定されます。
その最前線となるのは中東情勢。特にイランへの注視が必要です。トランプ大統領時代のイランを敵視した外交政策は、中東のパワーバランスを混乱の渦に落とし込みました。欧州とイランが進めた核合意を独断で離脱、経済制裁を課すことでイランを孤立させ、トランプ大統領の支持母体であるキリスト教福音派を取り込むためにイランの天敵イスラエル優位の外交政策を強行。2020年1月にはイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官をアメリカ軍無人機がイラクの首都バグダッド国際空港で殺害する事件まで引き起こしました。アメリカとイランの軍事衝突の可能性が極限まで高まり周辺国の介入でかろうじて開戦を回避した経緯があります。トランプ大統領の外交指針はまさにビジネス、次期大統領選挙で優位となる権益には歴史や地政学を無視したディール(取引)を繰り返してきました。
バイデン新大統領がいかなる交渉で中東情勢に絡み合ってくるのか。かつてのオバマ大統領のように軍事力という背面の恐怖をもたせながら、アラブの地をアラブ人自身が安定統治できる環境を支援するという政治の輪郭を大切にしていくかもしれません。これからはアメリカファーストではなくバイデン大統領が掲げる多様性の本質を注視していく必要があります。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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