原稿執筆時点において軍事衝突の懸念が高まっているウクライナ。民主政治体制を求めるウクライナ中央政府を支援する集団的自衛権の枠組みである欧米諸国の北大西洋条約機構(NATO)。構成国であるアメリカやフランス、イギリス各国はウクライナに接する東ヨーロッパへ兵力を移動させ軍事支援を開始。対峙するロシアはウクライナ東部国境に兵力約3万5千人、南部のクリミア半島へは約5万人、広域に渡るウクライナ国境地帯全体では10万人以上の大規模兵力を集結させ軍事侵攻体制は完了の状態。偶発的な衝突が大規模な戦闘に結びかねないウクライナ危機が山場を迎えています。
東欧地域へ米軍の派遣を強行したアメリカ・バイデン大統領は、軍事外交と同時に経済制裁も発動。対象は軍部に関わるロシア政府関係者だけでなく、プーチン大統領の個人資産にも狙いを定め制裁枠の拡大で揺さぶり。これに対しロシア側は即座に資源エネルギーでの報復制裁を展開。ロシアが国家事業として世界に掲げてきたエネルギー戦略を外交圧力として、欧州連合(EU)がロシアに依存する資源エネルギー、特に天然ガス供給の遮断を突きつけました。というのも欧州諸国がロシアから供給を受ける天然ガス輸入量は欧州消費量全体の約47%を占めており、ロシアがエネルギー制裁に踏み切れば欧州各国の生活基盤が不安定化することは必至。エネルギーという強硬な外交カードはロシア優位の切り札となりロシアが求めるNATO東方拡大を阻止する可能性が高まります。
このエネルギー戦略で特に注視されるのがロシアとドイツを繋げるバルト海縦断の天然ガス海底パイプライン、ノルドストリーム(稼働)とノルドストリーム2(未稼働)。このパイプライン事業には欧州各国の元政治家がロシアの国営石油・ガス会社の役員に参画することで両国の落とし所を調整するも、天然ガスに依存するNATO構成国間で政官民が複雑に絡み合った内部衝突や不信感が渦巻いています。エネルギー危機を想定する欧州連合(EU)はロシア以外からの天然ガス輸入安定化を模索。これまでアメリカや北アフリカのアルジェリア、中東のカタールと供給関係を再確認。アジア地域からの輸入拡大も選択肢に含めました。軍事衝突を土壇場で回避し、優位な国益を引き寄せる強靭で強引な国際外交の最前線がウクライナ危機であります。まるでかつての鉄のカーテンと呼ばれた民主国家圏と社会主義国家圏の線引きが、現代に再浮上してきた様相を呈しています。ウクライナ危機の動向に目を向けていきます。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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