2023年10月7日から続いたイスラエル軍によるガザ軍事侵攻。約1年3ヶ月に及んだ大規模戦闘は、イスラエルとイスラム組織ハマス双方の停戦合意により戦闘が停止されました。これまでのガザ領内の犠牲者は4万8000人以上。ガザ全域の約70%が壊滅の状態に陥っています。イスラエル政府は停戦合意要件を1月19日に施行。第一段階として拘束していたパレスチナ人100名以上を解放しました。ハマス側も段階的に人質を解放させており、合意条件そのものは現時点では履行されています。同時にイスラエルのネタニヤフ首相は、ハマス側に停戦合意規約違反があった場合は即座に攻撃を再開させることを通告しました。アメリカのトランプ大統領就任直前にガザ停戦合意が結ばれたことで、トランプ大統領によるイスラエル寄り中東外交のディール(取引)を暴走させない思惑が動いたとも指摘されています。
イスラエル国内では、今回の合意要件を鑑みたユダヤ強硬派政党がネタニヤフ連立政権から離脱しました。イスラム組織ハマス壊滅を掲げるユダヤ強硬派政党の離脱は、贈収賄訴追を受けるネタニヤフ首相の連立政権崩壊を意味します。政権の安定基盤を維持させることこそがガザ停戦合意継続の要となるゆえに、ネタニヤフ首相の政権舵取りを注視しておく必要があります。イスラム組織ハマスの動きにも注意が必要です。ハマスは人質解放リストを提出し、段階的に人質の解放を続けることを約束しました。ガザ領内では復興に向かう政治体制の構築が求められていますが、依然過激派関係者は一部存在しており、合意反故を狙った突発的な軍事攻撃に踏み込んでくる危険は拭えません。ガザ復興を破壊しかねない一部の過激派による暴走を抑止することは必至であります。ガザ停戦合意は世界各国が歓迎しました。エジプト政府はガザ南部国境ラファ検問所を即座に開放し、飢餓状態が続くガザ地区に緊急支援物資を搬入しています。1日で630台のトラックがガザに入りライフライン復興を繋げています。アラビア半島南端イエメン拠点のシーア派武装組織フーシは紅海航行船舶への攻撃停止を発表しました。紅海は地中海からスエズ運河を経てアラビア海に抜ける世界海上輸送の最重要航路であり、ガザ軍事侵攻以降イスラエル支援を掲げた欧米諸国の船舶が繰り返し報復攻撃にさらされていました。
中東情勢の核であるパレスチナ問題は、アラブ諸国だけでの解決は困難を極めます。特にアメリカのトランプ大統領によるイスラエル寄りの中東外交が展開された場合、中東一帯で反発の狼煙としてイスラム国など過激派が再び台頭する危険をはらんでいます。いかに世界各国がパレスチナ問題に関われるか、この繋がりこそが中東地域の安定を固める一歩であると痛感しています。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…