「蛇口をひねっても水が出ることはない。」これが世界の水事情の常識である。
日本のように水道から24時間、飲むことができる奇麗な水が溢れ出てくるのは世界中でもきわめて稀である。
仮に蛇口から水がでたとしても、実際には飲むことができない国は多い。そこでは高価なミネラル水を手に入れることができればまだ幸せだ。しかし世界の水事情はより深刻である。とくに情勢が不安定な国々では、水の確保は子供たちにとって生死にかかわる。
水道が少ない国・地域では、子供たち自らが飲料水を確保するために働く。
その象徴はアフリカ、ガーナにあった。この国のほとんどは森に覆われていて、水道施設は都市部でしか目にしない。森で暮らす子供たちは、家族の飲み水を確保するために2キロ離れた河まで水を汲みに出向く。水を入れると重さ20kgにもなるたらいを頭にのせて自宅に向かう。一日5往復して初めて家族皆が飲み水を手にすることができる。
砂漠の国、アフリカ東部のスーダンでは、戦争が続いおり、水汲みに出向くことさえできない。戦争被害から免れるために子供たちは難民キャンプに逃げ込んでいる。そのキャンプ地の中に国際救援団体による臨時の井戸が掘られていて、子供たちは見たこともない井戸に驚愕していた。みな我先にロバに水筒をくくりつけて井戸へ殺到、家族への飲み水を一日中運んでいた。
アフリカでは今、世界中から子供たちへの飲料水支援が強化されており、アフリカ全土で井戸が掘り起こされている。ポンプから吹き出る水を見る子供たちの表情は歓喜に満ちあふれていた。
パキスタンの村では、小学校高学年の女の子が、村に一つだけある井戸から毎日10キロの水タンクを運んでいた。この少女が運ぶ水は、飲み水だけではなく、生活用水として家族をささえる命の水となっていた。
戦争が続いていた中東のレバノンでは、爆撃から避難する子供たちのために飲料水タンクが救援物資として運びこまれた。戦争で電気もガスも水道もすべて遮断されているなか、水を確保するためにタンク前には人が溢れかえる。やっと手にした水を一心不乱に飲み続ける少女の姿が印象深かった。
同じく戦火が続くアフガニスタンでは、学校の校舎が破壊されたために、民家をかりて子供たちは授業に励む。学校の代わりとしての民家をえらぶ基準となっていたのは、そこに井戸があるか、これが絶対条件であった。水を確保することが生き延びるための最重要課題なのだ。
いつでもどこでも水を飲むことができる。こうした奇跡は日本ぐらいである。世界に目を向けると生きるための命の水を欲している子供たちであふれかえっていた。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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