世界中で繰り返される戦争。誰も戦いを望んでいなくても、戦闘という日常が生活の中に食い込んでくる。そして戦いで犠牲になっていくのはいつも子供たち。誰しもが想っている。戦争を止める方法はないのか。一時的にも戦いを止める手段があるのではないか。現実をたどると、人類史のなかで戦いがなくなったことはなく、この史実が希望を覆いつくしてしまう。しかし、世界中の戦場に実際に足を踏み入れてみると、戦いを止めようとする人たちが存在することに気づかされる。
印象に刻まれた出会いとして、中東のイラクで発生した2003年のイラク戦争があげられる。この戦争が始まる直前、首都バグダッドには世界中から若者たちが集っていた。彼らの目的は明確で、使命は戦争突入を阻止すること。政治や外交、経済圧力を使わずに、戦いを止めることをメッセージに託し、多数の若い男女が地面に横たわっていく。反戦パフォーマンスであることは一目見て確認できるのであるが、実際に道に横たわる若者たちをみると、その理屈抜きの姿勢に誰しもが圧倒されていた。さらににこうした動きに寄り添うように、地元の子供たちが戦いを避ける方法を探っていた。平和が大切なことは誰しもがわかっていながら、戦争は間近に迫る。子供たちが学校や広場、幹線道路に集い攻撃中止を訴える。届かない声であったとしても戦争阻止を叫ぶ動きが止まることはなかった。開戦直前の静けさの中、戦場となっていく土地ではこうしたつながりを目にすることが多かった。
戦争をとめる方法はないのか、誰しもが嘆き、もがいている姿がそこにあった。それでも戦争は繰り返されていく。これが現実と受けとめなければならない悲しみが横たわる。
21世紀は国と国が対峙する戦争から、テロとの戦いや貧困や格差からくる怒りの衝突が主軸になってきている。過去の歴史から展望を予知することに限界があるのか。もしかすると私たちはいままでに遭遇したことのない新しい戦争という輪郭にたたされているのかもしれない。戦場という現場に入れば入るほどそう痛感している。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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