ピラミッドやスフィンクス、王家の谷などエキゾチックな香り漂う世界遺産が多数存在するエジプト。その魅惑的な観光資源は、世界中の旅人をこの地へ呼び寄せ、日本では新婚旅行先としても人気を博しました。そんなエジプトが、現在、歴史の渦に巻き込まれようとしています。
中東を拠点とし、世界の分断を引き起こした過激派組織イスラム国。その分派組織で、エジプトを拠点とするイスラム国シナイ州が襲撃事件を拡散させています。イスラム国は、イラク・シリアでのイスラム国壊滅作戦によって組織が細分化され、世界各国に流動。エジプトに影響を与え始めました。そのような中、現在のエジプトを牽引する軍人出身のシーシ大統領は、過激派組織への徹底抗戦を掲げ撲滅作戦を展開。イスラム過激派側はキリスト教系コプト教徒を攻撃することで宗教対立をあおる戦術を取り始めています。こうしたテロ組織による混乱が続くエジプトでは、観光客が激減。観光収益は、全盛期の約6割ほどまでに落ち込みました。
アラブ諸国での民主化運動、通称アラブの春の中心となったエジプトでは、長年独裁体制を敷いたムバラク元大統領が退陣、イスラム教の教えを前面にだしたムスリム同胞団出身のムルシ大統領が登場。その後、ムルシ大統領が関わったとされる民間人殺害事件を機に現在のシーシ大統領が誕生しました。数年の間に次々と指導者が入れ替わり、その支援者たちが内戦のごとく政敵を攻撃する。こうした混乱に乗じて過激派組織がエジプトで力を蓄えてきました。現在のエジプトは時代の波に翻弄されている状態といえます。
エジプトの動乱は国民生活の質までも奪い去りました。エジプトの通貨エジプトポンドは、アラブの春以前に比べて3分の1程度の価値に落ち込み、街中の物価が急激に上昇。国内のお金の流れが滞っている傾向が続いています。最大の収入資源である観光業の打撃は大きく、人で溢れかえっていたギザのピラミッド周辺はまだまだ静寂な状態といえます。国民の暮らしが向上、安定しない限り、再びエジプトを舞台とした動乱が再燃してもおかしくはありません。過激派を生む土壌がエジプトでは広がりつつあります。2011年のアラブの春はもしかするとアラブの冬を予兆するものだったのかもしれないと感じています。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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