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2007年09月16日

環境特別対談―末吉竹二郎氏「企業と環境問題 <後編>」

今回は、メディアでもご活躍中、国連環境計画の金融イニシアチブ特別顧問として、地球温暖化問題に金融という側面から取り組んでいらっしゃる末吉竹二郎さんをお迎えし、危機的局面にある地球環境問題において、各企業がこの問題にどう取り組むべきか、お話をうかがいました。 >>前編はこちら

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【対談のお相手】
末吉 竹二郎 
/国連環境計画 金融イニシアチブ(UNEPFI)特別顧問
1967年東京大学経済学部卒業後、三菱銀行入行。1989年より米州本部に勤務。ニューヨーク支店長、取締役、 東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取を経て、1998年、日興アセットマネジメント副社長。日興アセット時代にUNEPFIの運営委員会のメンバーに就任。これをきっかけに、この運動の支援に乗り出す。2002年の退社を機に、UNEPFI国際会議の東京招致に専念。2003年10月の東京会議を成功裏に終えた。現在も、引き続きUNEPFIに関わるほか、環境問題や企業の社会的責任(CSR/SRI)について、 各種審議会、講演、TV等で啓蒙に努めている。
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■ピンチはチャンス ―環境問題はビジネスの格好の材料

村田: 前回は、環境問題への日本企業の取り組みの厳しい現状と、今後、環境問題対策をビジネス戦略の1つとして経営に組み込むべきだという点までおうかがいしました。実際に、環境を切り口にビジネスを展開して収益を上げている企業には、どのようなところがありますか?

末吉: 例えば、大きなところでいえば、省エネや資源エネルギーなどの技術開発には、世界中のお金が投資されています。現在、シリコンバレーに第二次ブームが再来していて、その火付け役は太陽光発電パネルだといわれています。これを省シリコンでどれだけ発電効率のいいものを作るか、ということに世界から資金が投入されています。実際、IPO(株の新規公開・新規上場)で儲けているのは、省エネ開発に投資している人々です。それだけ環境ビジネスには巨額のお金が動いている事実があります。

村田: 太陽光発電パネルに関して言えば、現在、日本製が発電効率世界一と言われていますよね。日本の企業3社くらいで世界一争いをするくらいトップレベルの技術を持っています。

末吉: 一方、中小企業でも、大企業より遥かに問題意識の高いところはあります。例えば、緑化運動の推進によって芝生の需要が高まり、芝生を植えたり、養生するビジネスが注目されるなど、今まで見向きもされなかった分野が賑わいを見せています。逆に考えれば、環境という切り口でアプローチすれば、思わぬところで大きなビジネスチャンスが転がっているとも考えられるんです。

村田: その芝生に関連した話ですが、ビジネスと福祉を組み合わせたプロジェクトに私も関わらせていただきました。知的障害者の方々に電化製品の分解と芝生の養生をして頂くんです。肥料には、コーヒー豆の廃棄物を再利用します。ここで育てた芝生は販売ではなく、レンタルするんです。そうすればお客様には常に青々とした芝生を提供できる上に、雇用促進にもなります。

iv42_04_sueyoshi01.jpg末吉: なるほど、レンタルというのがポイントですね。
 私自身が、大銀行と呼ばれるところで、ずっとサラリーマンしてきたので、あまり言えた立場でないのですが、企業の大きさや知名度と、ビジネスの成功は必ずしも対になっているとは言えないと思います。実際アメリカでは、大企業の重要なポストを捨て、独立して一介のビジネスを始める人間が多い。私は昔、そういう人に「ビッグビジネスの経営者のほうがいいんじゃないか?」と尋ねたことがありますが、「自分で何かを始めて成功させることが、この国ではヒーローなんだよ」と言われました。もちろん、大企業の中で成功を納めることにも意味があるのですが、小さくてもいいから自分の力で新しいビジネスを興して成功させるということに、個人も社会も価値観を見出しているんです。ですから、企業の大小に関係なく、むしろ社会が必要としているものにフィットすれば最初は小さくても必ず大きなビジネスになっていく可能性が高い社会です。私は、日本もそういう社会になるべきだと思いますし、「環境問題」はそれを実現させるための非常に有望なテーマでもあるのです。

村田: 確かに、いわゆる「大企業」の割合は、日本の企業のうち1%ほど。ほとんどが中小企業ですよね。従来型の消費社会では、資本面や知名度で大企業に追いつけない中小企業でも、今後は環境という観点で戦略を練っていけば、『環境下剋上』が起こるのではないでしょうか。小さな企業が、環境ということに視点をおいたら取引が殺到して、たちまち大きくなるパターンです。しかし逆に、環境をないがしろにしてきたばかりに対応がとれず、いきなりバタンと倒れる大企業も出てくるだろうなと思います。

末吉: それは十分にありえますね。

■環境と経済の両立のために

村田: ここで少し、民族のメンタリティの話になってしまうのですが、欧米はキリスト教の国ですから、「人の役に立つ」「貢献する」という考え方がベースにあります。一方で日本人は、「人様に迷惑をかけてはいけない」という考え方です。どちらが良い悪いではなく、このメンタリティのベースの違いが、環境への取り組み方にも影響を与えているのではないかと思うんです。

末吉: アメリカのヒューレット・パッカードの前々会長も言っていました。「いまや企業は悪いことしないだけではだめ。”いいこと”をしろ」と。「貢献する」ということに頭を切り替えられるかどうかが、今後の企業経営者のターニングポイントになってきますね。

iv42_04_murata01.jpg村田: 日本で取得ブームが起きている「ISO14000(※)」は、まさにキリスト教のメンタリティに近いものがあります。どんなに気をつけても、生きて活動をする限りは環境に負担をかけてしまうのは仕方がない。だから、どれだけ負担をかけているかを自覚し、世の中にもそれを公開して、そこから環境に対してどのような貢献ができるかを目標として設定せよ、という論点へ至ります。どうも、この考え方は日本人には辛いようです。基準値を逸脱しなければ法律違反じゃない、コンプライアンスを徹底していれば責められることはない、「人様に迷惑をかけてないのなら、それでいいじゃないか」という考えです。
※「ISO14000」…国際標準化機構(ISO)によって制定された環境に関する国際規格。企業や団体が、環境への負担を減らすための改善を行う体制や手順などを定めている。日本では通称「環境ISO」と呼ばれ、近年、取得ブームが起こっている。

末吉: 「貢献」と言うと、あまりビジネスと直結しないイメージかもしれませんが、いま世界で言われているのは、「企業の存在が許されるのは、社会の利害と一致するから許されるんだ」という考え方だと思います。社会にとって害があるのは許されない。中立的でも許されない。利をもたらすものだけが存在を許されるという考え方です。現在、環境問題で社会がこれだけ困っているということは、それに負担をかける企業が排除されるのは当然でしょう。

村田: そうすると、まさに「必要は発明の母」で「困りごとは必要の父」だと思うのですが、ここまで人々が困って必要とすることがあるということは、まさに大きなビジネスチャンスでもあり、これを逃す手はないわけですよね。

末吉: 本当にそうです。実際、環境に力を入れている企業への後押しは、私が現在、取り組んでいる仕事です。銀行がお金を融資する、あるいは投資家として金融機関が株に投資するという場合、これまでは儲かるビジネスかどうかが融資や投資の判断基準でしたが、それ以上に環境に配慮しているかどうか、あるいは社会的責任を果たしている企業かどうか、そういったことを投資判断に組み込んで投資や融資をしようということ奨める運動が始まっています。つまり金融の力を通じて企業の姿勢を変えようとしているんです。

村田: ますます現状のままでは、日本の企業にとって厳しい局面が訪れます。しかし、逆に考えれば、先見性を持って対応していったところから「勝っていく」ということでもあります。

末吉:ほかより早く対応していけば、相対的地位も高まります。ですから、あくまで環境問題はビジネスの問題だということに早く気づいていただきたい。やれば自社のビジネスが大きくなる、儲かることだという意識を強く持って欲しいですね。ここが経営者の勝負のしどころですから。 それから僕の実感では、一般の人々も「変化の発火点」のもう近くまで来ているはずです。それこそ一般市民からのアクションも、ちょっとマッチをすれば火がつくところまできていると思います。そのリスクも企業は考えたほうがいい。

村田: 本日は、貴重なお話をたくさんうかがうことができました。今後も、末吉先生にはメディアにたくさん出て頂いて、環境問題についての意識の喚起を促していただければと、陰ながら応援しております。

末吉: お互いに頑張りましょう。もし村田さんが選挙に出られることがあるなら、私は隣で応援演説に駆けつけますよ(笑)。

村田: いやいや(笑)、地道にがんばっていきます!本日はどうもありがとうございました。 (了)

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村田佳壽子

村田佳壽子

村田佳壽子むらたかずこ

環境ジャーナリスト

桜美林大学大学院修士課程修了。元文化放送専属アナウンサー。1989年環境ジャーナリストの活動開始。現在、明治大学環境法センター客員研究員、ISO14000認証登録判定委員、環境アセスメント学会評議員、…

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