たった一回きりの人生なので、十分に生きて、すっかり使い切って死にたいと思っています。もう去年のことですが、十二指腸にガンが見つかり、幸いごく初期のものだったので切り取って完治。おかげさまで転移もなく、以前よりも元気に過ごせています。
まぁ60年も生きていたら、体のどこかに不具合が出てきて当たり前。車だって車検があり、定期的にパーツ交換しなければ動かなくなるのです。とっとと悪いところを取り去ってしまえば、生まれ変わって第二の人生を始めることができます。私なんて腹黒いところを取り去ったので、とってもいい人間に生まれ変わることができました、と本人は思っているのですが。
医者からガンの宣告を受けた時、ありゃりゃ、そーなんだ、ガンなんだ。てことは死んでしまうんだな、とがっくり。でもなぁ、今日まではとりあえず好きなことやって生きてこられた訳だし、ちょっと早いかもしれないけれど、まぁこんなもんかもしれないな、と一人でいるときは意外と冷静でした。ところが病室に、1歳と4カ月になる一人息子と、通算で三人目になる妻がやってきたとき、不覚にも泣きましたね。こいつにまだ何も伝えきれていない、まだ死ぬわけにはいかない、と生への執着がムクムクと。よーし、もっと生きてやる。息子国太郎がたくましく成長するまで、絶対に生きてやるぞ、と心に決めたのです。
で、病院のベッドで考えました。森へ帰ろう。無事に退院できたら、妻と国太郎と森へ帰って、朝日とともに起きて、畑を耕し、山菜を取って、魚釣りに行って、炭焼いて、夕日とともに家へ戻って、ぐっすり眠って…。
すでに都会暮らしに見切りをつけて、富士山のふもとの森の中で自然暮らしを始めてはいましたが、出稼ぎと称する東京通い、お金欲しさの遠距離通勤が、知らぬ間に十二指腸を蝕んでいたのです。今度こそは、例え貧しくてもいい、正真正銘の自然暮らしをやるぞと神にも妻にも、国太郎にも誓ったのです。
人生の半分は都会暮らしでも、残りの半分は自然暮らしでなければ、人生を使い切ったことにはならない、と思います。便利で快適ではあるけれど、本来人間の体に備わっている、大自然の中で生きてゆくための能力に出番がないのが都会暮らし。その野生の能力たちが出番を求めてイラついているのが現代人のストレスの元凶なのでしょう。だから、です。都会に比べたら不便だし快適ではないけれど、その環境で生きてゆくために全身を使い切るから、ストレスが溜まらない。暑くて寒くて痛くて臭くて、でも楽しくて気持ちよくて、自分の力で確かに生きているという実感を味わうことができるのです。
都会暮らしから自然暮らしへ。ポイントは楽から楽しい、でしょうね。もっともっとと楽な暮らしを追い求めていった果てには、ただ生きているだけでいい、その意味では「楽な寝たきり」の生活が待っています。けれど決して、「楽しい寝たきり」生活が存在しえないように、楽と楽しいは全く別物です。
今の段階でどちらの道を選ぶかを決断すべきなのでしょう。都会暮らしなのか自然暮らしなのか。楽が何より一番という価値観の人は、「なんでわざわざ、こんな便利なものがある都会から、不便な自然の中へ行かなきゃならんの」と、不便さや苦しさの先にある「楽しい」がイメージ出来ずに首をかしげます。生きてゆくために必要なことを、全て自分でやらなければならない自然暮らしだからこそ、生きている実感があって、「楽しい」を感じることができます。
人生の半分で「楽」を堪能してきたのなら、もう半分の後半人生では「楽しい」を堪能して、全て使い切ってからカックンと終わる「直角死」を目指しましょう。
清水国明しみずくにあき
タレント
「あのねのね」で一世を風靡。芸能界きってのアウトドア派、スローライフ実践者としても知られ、子ども達の生きる力を育むための自然体験イベント等を積極的に実施している。また自然と共に生きる自身の経験から、シ…
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