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コラム 教育

2018年04月25日

「みんな一緒」の同調性と子どもたち

春は進級、進学の季節。今年度も日本全国の学校で、子どもたちの「新しい人間関係」がはじまっています。

すぐに友達ができたり、周囲と打ち解けられる子どもがいる一方で、孤立しがちな子どもも少なくありません。一見、友達と楽しそうに過ごしているようでも、本人の気持ちは「無理に合わせている」、「疲れる」などと苦しかったりします。

子どもや学校現場を取材していると、近年ますます「みんな一緒」という同調性が強まっていることを感じます。今回はその象徴的な出来事として、あるエピソードを紹介しましょう。

中学校の男子生徒数人が、ファミレス(ファミリーレストラン)で一緒に食事をしたそうです。「みんなでフリードリンクを頼もう」となって、料理とは別にフリードリンクを注文しました。ところがその中に、家庭の経済状況が苦しい男子生徒がひとりいました。フリードリンクは200円ほどの料金を追加すればいいのですが、この金額を支払うのが厳しかったのでしょう。彼は「僕は水でいい」と言い、フリードリンクを頼まずに無料の水をお替りしながら仲間との食事を終えました。翌日から、男子生徒は仲間に無視され、一切誘われなくなりました。要は「ハブられた」わけです。ちなみに、「ハブられる」とは仲間はずれになるという意味で「省く」が語源。自分の存在が省略され、「無いもの」とされてしまうのです。

男子生徒から相談を受けた担任の先生は、彼を仲間はずれにした生徒たちを呼びつけ、「どうして無視するんだ」と聞きました。先生はてっきり、生徒たちから「これから気をつけます」、「また仲良くします」と言われると思ったそうですが、出てきた言葉はまったく違うものでした。

男子生徒を仲間はずれにした子どもたちは、こう言ったのです。「ファミレスで、自分たちはジュースやコーラを飲んでいるのに、アイツだけが水を飲んでいた。その様子をまわりの客にジロジロ見られて恥ずかしかった。だからもう仲間に入れたくない」

みんなでフリードリンクを頼んでいるときにひとりだけ水を飲んでいる。そのせいで自分たちが恥をかき、嫌な気分にさせられた。悪いのはアイツのほうで、それを排除して何が悪い、それが生徒たちの主張だったのです。

正しいのは自分たち、そういう自分たちに合わせられないほうが悪い、という考え方に驚かれるかもしれませんが、実はこの手の話は少なくありません。

たとえば部活動の連絡をLINEで行うとなったとき、ひとりだけスマホを持っていないメンバーがいたとします。私たち大人の感覚すらすると、「あの子はスマホを持っていないから家に電話してあげよう」と配慮するのが当然だと思います。ところが、当の子どもたちの言い分は違うのです。

「連絡網に入りたかったら、スマホを買ってLINEをやるのがあたりまえ」「それをやらないのは本人の責任。どうしても連絡がほしかったら、自分からメンバーにお願いして、内容を教えてもらえばいい」
「いちいち電話で伝えるとか、超めんどうだし、そういう人は部活をやるなと言いたい」こんな言葉が、まったく悪気なく出てくるのです。

私たち大人は、子どもの社会で仲間はずれが起きると、「みんなで仲良くしなさい」、「一緒に遊べばいいじゃない」などと言いがちです。いわば、「同調性」や「協調性」を求めるわけですが、実はこうした意識こそが仲間はずれの理由として使われることがあります。「アイツは仲間はずれになってもしょうがないよ。だってみんなと一緒に行動できないんだから」そして、そういう子どもたちの背景には、私たち大人社会の同調意識が深く関わっているようにも思うのです。

個性重視とか、個人の価値観の多様化などと言いながらも、大人は子どもに「まわりの子どもと同じようにやる、できる、努力する」ことを求めがちです。授業参観でみんなが手を挙げているのに、自分の子どもが下を向いていたら、「なぜみんなと同じようにできないの」と叱ってしまうこともあるでしょう。
特にネット社会の今日では、誰かの意見や考えに「いいね!」、「そう思う」などと同調が集まりやすくなっています。一旦、同調が集まると、「同調が同調を呼ぶ」展開になり、ますます大きな声となって少数派を圧倒していきます。

「みんな一緒」、「みんなに合わせる」、こうした空気感が強まる中で、子どもたちの人間関係も少なからず影響を受けているような気がします。

石川結貴

石川結貴

石川結貴いしかわゆうき

ジャーナリスト

家族・教育問題、青少年のインターネット利用、児童虐待などをテーマに取材。豊富な取材実績と現場感覚をもとに、多数の話題作を発表している。 出版のみならず、専門家コメンテーターとしてのテレビ出演、全国各…

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