前回に引き続き、子どもに教えたい「自分力」について書いてみましょう。ここ数年、取材の中で痛感するのは、子どもの思考や行動が「固定化」しているということです。
たとえば、知らない土地の道順を調べるというとき、真っ先に向かうのはスマホやパソコン。スマホやパソコンで情報収集すること自体が悪いわけではなく、むしろ当然の行動かもしれません。特にスマホは、画像や音声で「道案内」をしてくれますから、誰にとっても便利さを実感できるものでしょう。
問題は、もしもスマホやパソコンが使えなかったらどうするか、つまり「想定外」の事態に対応できるかということです。
取材先で会う中学生や高校生に、「知らない土地の道順を知りたいとき、スマホが使えなかったらどうする?」と尋ねると、「わかんない」とか「考えたことがない」と返ってきます。スマホは機械ですから壊れることもありますし、そもそも電源がなければ動きません。けれども子どもたちは、「スマホが使えない」という事態を、まず想定していないのです。
さらに、「使えない」事態に陥ったときどうすればいいかという方法も、まったく考えていません。ほんの少し周囲を見渡せば、いろいろな方法があるにも関わらず、それらに思い至らないのです。
おとなは、かつての子ども時代、スマホなどという機械は持っていませんでした。知らない土地に行くために電車を乗り継ぐ、道順を知るというときには、駅員さんに電車の乗り方を尋ねたり、通りすがりの人に道を教えてもらったりしたものです。
そういう経験があるおとななら、スマホがなくてもいくらでも行動できますが、いまどきの子どもにはその部分がすっぽり抜けているのです。幼いころは親や先生が引率してくれますし、ある程度大きくなって自分で行動する際には「スマホ頼み」です。要するに、誰かに尋ねる、誰かの力を借りるという経験がないまま育っているわけです。
経験がないので、「スマホ以外にも方法はある」ということがわかりません。私が取材で会う子どもたちが「わかんない」、「考えたことがない」というのは、ごく自然な反応とも言えるでしょう。
それでも、前述したように、スマホが「使えない」という事態に対応できる力、想定外のことがあっても乗り越えられる力は、実はとても大切なものだと思います。
なによりも、「機械」ではなく「人」と向き合うことで情報や知識、知恵が得られるという経験は、ネット時代を生きる子どもにぜひ教えたいところです。
このような経験がないまま、今の子どもがおとなになったとき、果たしてどのような事態になるでしょうか。ある企業の管理職の方から伺ったエピソードを紹介しましょう。
オフィスにお客さんが見えたので応接室に通し、新入社員に「応接室にお茶を持ってきて」と言ったそうです。新入社員は「はい、わかりました」と答えたのに、いつまで経ってもお茶を持ってこない。どうしたんだ? と思って様子を見に行くと、なんとその社員はパソコンで「お茶の入れ方」を調べていたのです。
管理職の方はビックリして、「お茶の入れ方がわからないなら、近くにいる先輩社員に聞けばいいだろ!」と言ったそうです。ところが新入社員から返ってきた言葉は「えっ? 聞くんですか? わからないことはネットで調べればいいと思ってました」というものでした。
このエピソードを講演会でお話すると、会場の皆さんは笑い声を上げます。けれども実際には、「笑い話」では済まないものですよ、とお伝えしています。
人に頼る、人と向き合うということができず、なんでも「機械」頼み。そんな現状が、この社会に確実に浸透しているのです。
石川結貴いしかわゆうき
ジャーナリスト
家族・教育問題、青少年のインターネット利用、児童虐待などをテーマに取材。豊富な取材実績と現場感覚をもとに、多数の話題作を発表している。 出版のみならず、専門家コメンテーターとしてのテレビ出演、全国各…
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