私の講演会では、地域で役員をされている方、行政や教育機関の管理職の方が参加されることが少なくありません。いずれも、子どもの健全育成や生徒指導のリーダー的存在の方です。相応の経験やキャリアをお持ちなのですが、一方でどうしても年齢層が高くなり、年配の方や子育てを卒業された方もいらっしゃいます。
そのような方たちに「今の子どもが置かれた状況」を理解していただくため、あるエピソードをお話しています。それは、「文字だけのお品書き」と「写真入りメニュー」についてです。
私を含めたおとな世代は、たとえば食堂に入ってテーブルの上の「お品書き」を見ても、何の抵抗もなく注文できます。「焼き魚定食、煮物、小鉢、汁、香の物」などと書かれていても、だいたいの内容が想像できて、「あっ、おいしそう」と思えるわけです。
そもそも、私たちの子ども時代には「文字だけのお品書き」があたりまえでした。要するに経験値があるのです。
ところが、イマドキの子どもたちは「文字だけのお品書き」を見てもピンとこない、そして注文できないという場合があります。
あるとき、中学生の3人組を取材する機会がありました。この手の取材のときには、ファーストフード店を利用することが多いのですが、たまたま地方の小さな町で適当なお店がありません。
ちょうど寒い時期だったので、「あったかいものでも食べようか?」と駅前の食堂に誘いました。昔ながらの古びた食堂です。
テーブルの上には、「お品書き」がありました。そばやうどんがメインの食堂のようで、「かきたまそば」とか「けんちんうどん」、「カレー南蛮」といったメニューが並んでいます。
中学生たちに「何にする?」と尋ねても、みんな困ったような顔をしています。最初は遠慮しているのかと思いましたが、そうではありませんでした。「お品書き」に表示されている食べ物がどんな内容なのか、わからないのです。
「けんちんうどん、ってなんですか?」、「カレー南蛮はどういうやつ?」と聞かれた私は、それぞれの食べ物を言葉で説明しました。その説明の最中、ひとりの中学生がスマホを取り出し、「けんちんうどん」と「カレー南蛮」をネットで検索したのです。
スマホの画面には、それぞれの食べ物の「写真」が表示されました。中学生たちは、その画像を覗き込んで、「ああ、こういうやつか…」と納得の表情です。
そう、彼らは言葉での説明よりも、「写真」を見ることを選んだのです。これは当然と言えるかもしれませんが、今の私たちの生活では、文字だけの古いお品書きより、カラフルな写真入りメニューのほうが一般的です。
ファミレスや回転ずし、ハンバーガー店、チェーン展開する食事処やカフェなどは、どこも写真入りメニューや写真付タッチパネルが用意されています。どんな食べ物なのか、どういう商品なのか「目で見て注文する」わけです。
こうした状況を踏まえると、子どもに対する指導方法はおのずと変わっていいはずです。抽象的な「がんばれ、努力しろ」といった言葉ではなく、「具体的」にどうすればいいか、どんな方法があるか、「目で見てわかるように」教える、そんな指導が求められるでしょう。マンガやイラストで教えたり、写真や動画を使って伝えたり、新しいコミュニケーション方法を模索してほしいと思うのです。
石川結貴いしかわゆうき
ジャーナリスト
家族・教育問題、青少年のインターネット利用、児童虐待などをテーマに取材。豊富な取材実績と現場感覚をもとに、多数の話題作を発表している。 出版のみならず、専門家コメンテーターとしてのテレビ出演、全国各…
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