「あなた方、みんなイケメンね~」
6人全員で「ありがとうございま~す」
「おばあさん、自分はどうですか?」「あなたもイケメンよ」
「おばあさんは、誰が一番好みですか?」
「みんな素敵!」
これは、日曜日の早朝、まだ人がいない電車の中での白髪の笑顔が素敵な老婦人と坊主頭の野球部らしい高校生とのほほ笑ましい会話です。
斜め前から聞こえてくる爽やかで楽しいそうなやりとりに、思わず私まで一緒に笑顔になっていました。
近頃は、お年寄りと若者の距離が離れているなかで、長い人生を歩き続けてきた大先輩と、これから未来に向かって歩き始めようとしている若者とのやり取りは、心が温かくなるような光景で、早起きをして良かったとその日一日がとてもうれしかったことを覚えています。
核家族化や地域社会の機能の低下により、お年寄りとの交流が少なくなった現代社会において、この車内での光景は、世代間交流のすばらしさを改めて考えさせられたことでもありました。
お年寄りとの交流は、豊富な人生経験の中から生きる知恵や、人として大切なことを学ぶとても貴重な場でもあり、子どもの発達に大きな影響を与えるものでもあります。
思春期の子どもにとって、厳しさや強さ、そして優しさを持つ存在に見守られることがとても必要な時期でもあります。昔は、お年寄りたちが大切にされ、親以外の健全な導き手として子どもを見守っていたものですが、今では多感な世代とお年寄りが、仲良く会話を楽しむ光景は、あまり見られなくなりました。車内の若者たちは、みな優しい思いやりの心を持った子どもたちでしたが、その顔は今の大人よりしっかりした顔つきをしており、その育ちが分るようでした。
子どもの「思いやり」の心は、お母さんへの愛着がきちんと確立されるところから始まります。相手の立場に立って考え、自分自身も相手と同じ気持ちになって共感するという共感性は、子ども自身が愛情をたっぷり受けて育つことにより育まれていきます。母親との最初の愛着関係が、思いやりの心を育てる原点となっています。それだけに親の責任は大きいということを忘れないでください。
車内での高校生は、子ども本来の素直さや無邪気さ、そして自然な笑顔で老婦人と接していました。もしかしたら、家では見せない顔かも知れません。多感な思春期の子どもたちが、これほどまでに自然な会話ができるのも、そうさせた老婦人の人柄や存在の大きさによるものでしょう。
子どもは、よく大人を監察しています。この人は、信頼してよい人なのかと。
寄り添う大人のあり方によって信頼し素を出すか、または、信頼できない大人に対しては壁を作り、本来の姿をなかなか見せようとはしません。
子どもたちが、かけがえのない子ども時代をしっかり歩むには、この老婦人のように私たち大人が、余裕を持って子どもの声に耳を傾け、そして声を投げ返すことができることが大切になります。
子どもは幾つになっても自分の声をしっかり聞いてくれる人を求めています。子どもが、本当の姿を見せられるよう大人自身がしっかりと子どもの傍に立ち、子どものどんな問いや投げかけに対しても、余裕を持って答えを返すことができる、器の大きな大人でありたいものです。
世代を超えた老婦人と高校生たちの楽しそうな会話は、朝日をあびた車内の中でまだまだ続いていました。今、現代が忘れかけた、そして失ってはならない光景を見たように思います。
春日美奈子かすがみなこ
フリージャーナリスト
國學院大學大学院法律研究科法律学専攻修士課程修了。報道畑25年の経験を生かし、少年院や教護院(現・児童自立支援施設)での実習を通し、常に現場の”今”や”生の声”を大切にして、少年問題に取り組んでいる。
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