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コラム 教育

2012年02月20日

洪庵のたいまつ

 江戸時代に、緒方洪庵という優れた蘭学者がいました。洪庵は、あふれるばかりの才能を、自分の名声や利益のために決して使うことはなく、他人のためにそれを与え続け生涯を終えた人でもあります。蘭方医学を学ぶため、マッサージをしたり、他人の玄関番などをして働きながら医学を学んだ人でもありました。
 29歳の時、洪庵は適塾をつくりました。この塾は、入学試験も、身分の差もなく、ただ「学問をする」という一つの目的と心で結ばれていました。洪庵は、自分の恩師から引き継いだ知識という大きなたいまつの火を、さらに勉強を続け大きくした人でもあります。そして、そのたいまつの火を、丁寧に弟子たち一人一人に移し続けた人でもありました。

 この弟子たちの火が、やがてそれぞれの分野でさらに燃え続け、それが火の群れとなり、やがて近代日本を照らす大きな明かりとなったと言われています。
 洪庵は、自分自身と弟子たちへのいましめとして、12か条の訓戒を書いたといいます。その第1条に「医者がこの世で生活しているのは人のためであって、自分のためではない、決して有名になろうと思うな。また、利益を追おうとするな。ただただ自分をすてよ。そして、人を救うことだけを考えよ」としています。
 教育とはこういうことをいうのではないでしょうか。人を育てるとはこういうことではないでしょうか。

 現代は、立派な経歴や才能を持ちながらも、人として当然備えるべきものが不足している人が増えているように思います。これは、才だけを育んで人より裕福な生活をさせようという欲望ばかりが前面に押し出された教育が行われてきたからではないかと思います。年齢だけを積んでも、精神が大人でない人が多いのも志の持ち方が違うせいのような気がしてなりません。自分の利益ばかりを追求する子どもが才ばかりいくら高めても、社会は本当の意味で豊かにはなりません。

 「人の役に立つ人間を育てること」これが、いま考えなければいけない大切なことのように思います。子どもの教育において、学力面と道徳面ともに大切なことでもありますが、徳は才より深い感動を与えます。勉強の目的が、自分が知識をつけることで、人を助けたり、役に立つために繋がると知っていたならば、また、勉強の目的が自分のためではなく人を助けるためだということを知っているからこそ、子どもはそれを達成するために必要な才能と体力を培おうと人一倍努力するようになるものです。
 将来の夢を持たない若者が多く存在します。限りない未来と力を持っているのにもかかわらず、もったいないことでもあります。
 明白な目的意識と情熱は自分の願いを実現させ、期待以上の成果をもたらす最大の原動力でもあります。親は子どもが自分のしたいことを自分で見つけられるように、道を示してあげることが大切になります。
 何時の世も、子どもの前に凛として立つ導き者としての大人の存在が重要になります。江戸時代、洪庵がたいまつの火を弟子たちに惜しみなく与えたように、私たち大人も、子どもたちにしっかりとした生きるうえでの精神と人として大切にしなければらないことをしっかりと伝えられるように、日々の歩みのなかで、自分育てとして積み重ねていく必要があります。
 大人も子どもも、人生に目標と意味を見出した人は、生き方の質が変わります。

春日美奈子

春日美奈子

春日美奈子かすがみなこ

フリージャーナリスト

國學院大學大学院法律研究科法律学専攻修士課程修了。報道畑25年の経験を生かし、少年院や教護院(現・児童自立支援施設)での実習を通し、常に現場の”今”や”生の声”を大切にして、少年問題に取り組んでいる。

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