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2012年10月19日

震える心

 台風17号の猛威の中、ベランダの隙間に吹きすさぶ風雨にさらされる小さな物体を見つけた。窓越しに目を凝らして見ると、羽が風に揺れているのが見えた。
巣に帰る途中なのか、はたまた帰る場所がないのか、一羽の鳩がベランダの隙間に頭と後ろの羽を風雨にさらしながら、凄まじい強風に吹き飛ばされないように必死に踏ん張って耐え忍ぶ姿があった。あまりの猛威に飛ぶこともできず、やっとたどり着いた場所であったのであろう。暗闇の中、雨にたたかれ、強風に吹き飛ばされそうになりながら、たった一羽必死に身を守りながらたたずむ姿に、思わず胸が締め付けられ、自然と涙を流す自分がいた。

 生あるものみな大自然の力にはかなわないものである。
容赦なく吹きすさぶ風と雨の中、どんなに不安であろう。どんなに寂しいであろう。私は、支え合い励ましあう仲間もなく、たった一羽で暗闇の中、風雨にさらされ耐え忍ぶその姿に、居場所を持てずに漂流している子どもたちの姿を重ね合わせて見ていた。心がとても痛んだ。
 安心して身を置くことができる居場所を持たない子どもは、この鳥のように冷たい社会の中で、SOSを告げることもできずに恐怖と不安を抱え一人で耐えている。
社会や大人は、それを暖かい部屋の中から見ているだけの傍観者であってはならない。

 風がつかの間弱くなった瞬間、また別の身を置ける場所を求めて飛び立ったのであろうか、その姿はなかった。嵐がおさまるにはまだ時間がかかりそうだ。その間どこに身をあずけるのであろう。今宵はどこにいっても漂流しているものたちにとっては、安住の地はないであろう。人も動物も命あるもの全て安心・安全のなかで身を置ける場所が必要になる。
 国の福祉政策は、助けを必要としている人たちが多くいるのにもかかわらず、相変わらず鈍い速度で進んでいる。
人は一人では生きられない。誰か一人でも傍にいてくれたならば人は救われるものである。一人たたずみ耐え忍ぶ子どもや人間をだしてはならない。嵐の夜、そんなことを考えた。

 暑い夏が去り、やがて凍てつく季節がやってくる。その寒さの中でも拠り所となる温もりのある場所や人が重要になる。寒さの中、町を一人さすらう子どもをだしてはならない。虐待が増え、家が安心の場で無くなった今、子どもを守り育むということ、人を大切にしながら歩みを進めていく社会とはどういうことなのかを改めて考える必要があるように思う。

 こごえ、震える心。この心を温め希望にかえること、社会や大人の課題であるように思う。

春日美奈子

春日美奈子

春日美奈子かすがみなこ

フリージャーナリスト

國學院大學大学院法律研究科法律学専攻修士課程修了。報道畑25年の経験を生かし、少年院や教護院(現・児童自立支援施設)での実習を通し、常に現場の”今”や”生の声”を大切にして、少年問題に取り組んでいる。

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