朝の込み合う通勤電車の中、何とも表現しづらい嫌な臭いが広がり、思わず鼻を摘んだ。30代後半から40代半ばと思しき女性が、通勤電車の中で、フルメイクをし始めた。大人の女性としては、十分な年齢である。
電車の中は公共の場であるということなどお構いなしに、せっせと顔作りをしている。これだけ多くの乗客に素の顔からのメイクの過程を見られ、出来上がった顔をいったい誰に見せるというのだろうか。見ていて滑稽になる。やがて人の親になるのかと思うと恐ろしくもなった。「恥じらいの喪失」を感ぜずにはいられなかった。
ルース・ベネディクトは、日本人論の代表作として、著書「菊と刀」の中で、日本の文化を、「恥の文化」、西欧文化を自立的な「罪の文化」として日本文化と西欧文化を対比させている。
日本人は、”ひとまえ”を気にし、他人の目にどのように自分が映るかを意識するという恥の観念に左右されているとしている。しかしこれを深く考えれば、日本人の恥じらいとは、他人を思いやる心を基礎とし、相手に不快な思いをさせない気遣いが根底にあり、それは美徳とされ長い間大切にされてきた日本人の心でもある。
時が進み今では、人々は個の中で行動し、他人を意識しなくなってきた。”恥も外聞もなく”自分のしたいように行動する大人が増え、それと同時に罪の意識やつつましさも希薄になってきている。
そのような大人を見て育つ子どもは、どのような規範意識を育むことになるのか、そのことを改めて考えなければならないように思う。
礼儀やしつけ、身だしなみは、家庭において育まれていくものである。それゆえに、子供のそばに立つ大人の存在は大きい。
「真似ぶは学ぶに通ず」と言う諺があるが、幼子は他人のすることを意図的にまねることによって社会生活に必要な多くのことを学んでいく。それゆえ、子どもには、人として大切な社会力を成人する前の早い時期に、きっちりと育てておくことが重要になる。
年齢だけ重ねても、ひと前でへいきで化粧をするような精神年齢が幼い大人が存在するのも、子どもの頃に人として大切にしなければならない”目に見えない人に対する思いやりや、配慮の気持ち”が育まれてこなかった結果によるものが大きいように思われる。
子どもにとって夏休みは、人に対する配慮が試される時期です。子どもとの時間や触れ合いを大切にしながら、社会におけるマナーを、しっかりと育む良い機会でもある。子どもに社会力を身につけさせるためにも、親も姿勢を正し、自らも成長していくことが必要になる。
人々の大移動が始まる長い休み、公共の場で誰もが気持ちよく過ごし、楽しい思い出をたくさん綴ることができる夏休みであって欲しいものです。
春日美奈子かすがみなこ
フリージャーナリスト
國學院大學大学院法律研究科法律学専攻修士課程修了。報道畑25年の経験を生かし、少年院や教護院(現・児童自立支援施設)での実習を通し、常に現場の”今”や”生の声”を大切にして、少年問題に取り組んでいる。
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