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コラム 教育

2009年05月20日

「家族の風景」―人間が寄って立つ最小の単位である「家族」、そこには、お金で買えない無償の愛と強い絆があります。昔の家族には貧しくても温かいものがありました。―

 「私たちが、子供たちにどんなに愛情をかけても、彼らの親にはかないません。どんなにぐうたらな親であっても子どもは、そんな親を慕う心がいつもある。親の愛情を求めています。親にはかないません…。」
ある女子少年院の教官が、実習で訪れた私にぽつりと話してくれた言葉が今も心に残っています。
この少年院には、更生していく過程での作文や、絵が沢山貼られていますが、その多くは親を慕う作文や絵でした。虐待やネグレクトといったひどい仕打ちを受けた子どもでも親をかばったり、親と離れることを拒否することが多く、親や家族から愛情を受けることなく生育してもそれでも彼らは、心の奥で親を思い、親を求めていることが多いのが現実です。子どもはいつも親の愛情を求めています。

 私は、幸せの原点・優しさの原点は、それぞれの「家族」の中にあるのだと思います。家の中にいつも人の気配がして、いつも会話がありお互いに思いやる気持ちをもっている。おじいさんや、おばあさんも一緒に暮らして、大家族として食卓を囲む姿が普通の姿でした。思えば昔は、日本全体が家族の結びつきがとても強かったように思う。
 テーブルの上に並ぶ物は、決して高価な料理でなく肉じゃが・ひじきの煮物などその家に昔から伝わる手作りの家庭の味が並んだものです。見た目は悪くとも味は最高。どちらが大きい小さいと、兄弟で喧嘩しながら食事をしても、そこには安心して身をまかせられる人の温もりと幸せがあったように思う。

食卓を囲んで、みんなでごはんを食べる。そこに幸せがありました。
今、家庭が家族がその機能を果たせなくなってきている。
その機能をもう一度働かせるために大切なことは、”食卓を幸せな場所”にすることではないかと思う。
作る人の愛情がこもった料理は、少々見た目が悪くてもとても美味しいものです。
 私の母は仕事をしていましたが、朝の忙しい時も、手作りの温かな食事を用意してくれました。玉子焼きは、形の整った物ではなく、少し変形しており、幼いながら「なんでうちの玉子焼きは不恰好なんだろう」と思ったことを今でも思い出す。しかし、その味は、私にとって最高だった。今でもその味を忘れないでいる。私のおふくろの味です。
愛情のこもった料理は、見栄えが悪くとも託された人の温もりや、幸せがおなかに溜まる。そして人は、成長していく。
 現代は、核家族化が進み、昔のように家族全員が揃うことは難しくなってきていますが、子どもの「孤食」が増えている今、子どもの傍に、一人でも大人がいてあげること、愛されているということを感じさせてあげることが大切です。

 心の教育は、食事をしながら、その日あつた良い事も悪い事も話しながら、時には叱られ、時には褒められながら箸を進め、色々なことを話す。そうする事で心と心が触れ合い子どもはコミュニケーションの仕方を学び、他人の心の痛みを知り、相手を思いやることを知る。
 質素な物であっても、それぞれに湯気が昇り、温かなご飯が並んでいて、人が居ることが必要なのではないでしょうか。物を与えることではなく、温かい心を与えることこそが重要だと思う。

 子どもにとって親は、人生で最初に出会う最も影響のある手本。親に支えられ教えられて人の世の掟を学んでいく。子どもは、家族関係を土台として人間関係を築き、人に対しての思いやりを育みそして社会というものを学ぶ。
 しかし、家族というものが、形だけのもので機能していなければ、子どもは、その家族を見つめながら成長することになり、それをもとに新たな人間関係や社会性、そして食生活を築くことになってしまう。
 家庭には、その家庭それぞれに異なった価値観がある。家族が揃っていようが、一人親であったり、共働きの家であろうが、自分達の家族に誇りを抱いて生きている家族は、精神的な繋がりが強い家族であり、子どもに対しても心の教育がしっかりとできている。
 時には大喧嘩もし、また時には自分のこと以上に心配し、そして嬉しいこと、悲しいことも一緒に共有し、どんな時でも見返りを求めることなく、心と心が手を繋いでいるものが家族だと思う。そして何よりも「心の居場所」であり、これからの人生において、愛というものを育んでいくための原点でもある。

 家庭は、大人にとっても、子どもにとっても最終的に帰る場所であり、”巣”のようなもの。どんなに時代が変わろうとも昔のように、どんなことがあっても安心して居られる場所、どんなことがあっても受け止めてくれる人が居る場所であり、安心して羽を休め、また外で頑張るための力を蓄える場所でなくてはならないと思う。
 子どもはやがて、人の親になる。未来の親になる子どもたちたちが、本当の家庭・家族というものの存在の大切さを誤って知ることがないように、心の教育の場である家庭・家族という居場所を、よりよく機能させることが不可欠になっているように思う。
 機能不全家族が増えれば、それとともに子どもの問題行動は多くなっていきます。

 生きづらい社会だからこそ、人にとって物ではなく、心を与えること、今の世の中で一番必要とされていることではないでしょうか。

あなたは今、家族のこころ、見えていますか?

春日美奈子

春日美奈子

春日美奈子かすがみなこ

フリージャーナリスト

國學院大學大学院法律研究科法律学専攻修士課程修了。報道畑25年の経験を生かし、少年院や教護院(現・児童自立支援施設)での実習を通し、常に現場の”今”や”生の声”を大切にして、少年問題に取り組んでいる。

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