親の姿勢を見せるという意味では、働いている姿、つまり、父親や母親の職場を見せるというのも、子どもを伸ばすうえで大事な戦略になる。
額に汗して働いている姿を目の当たりにすれば、子どもは「お父さんやお母さんも頑張っているのだな」と素直に感じ取るものだ。それだけでなく、「お金というのは、こうして働かないと手にできないものなのだな」という金銭感覚と、「僕もこういうふうになりたい」「いや私はもっと別の仕事に就きたい」といった職業意識が芽生える効果も期待できる。
首都圏屈指の難関女子中学、女子学院中などに子どもを合格させた大手建設会社勤務の父親は、娘を、自身がたずさわった大型マンションに連れて行き、土地の取得で苦労した話から、竣工した際に味わった達成感など、仕事をするうえでの大変さと完了させたときの喜びを、マンションの工程を振り返りながら話して聞かせたと言う。
その結果、娘は第一志望の中高一貫校に合格したあと、建設会社ではないものの、「自分も何かを作り出す仕事がしたい」と、将来の大学進学や職業選択を真剣に考えるようになったそうである。
慶応をはじめ難関私立大学の附属中に合格させた広告代理店勤務の父親とフリーのディレクターをしている母親も、それぞれが手がけたイベントや番組の公開録音の場に息子たちを連れて行き、かいがいしく働く親の姿を何度か見せてきた。
この夫婦に言わせれば、息子たちが「僕も大きなイベントをやりたい」と言い始めたのは、イベントを仕切ったり番組の演出をしたりしている親の姿を見せて以降だそうだ。
長男は念願の慶応に合格し、次男もまた、マスメディア業界で活躍する自分の姿を夢見て、自ら勉強机に向かう子に変わってきたと言う。
筆者も、子どもを、小学生の頃、数回、筆者の職場であるラジオ局のオフィス、あるいは、レギュラーコメンテーターをしている局のスタジオに同行させたり、筆者が教鞭を執っている千葉県内の大学キャンパスにも連れて行ったりした。
そして、その都度、「ここでこんな仕事をしているんだよ」という話をし、メディア業界や大学業界を取り巻く現状についても説明してきた。
中学生になった娘が、志望大学を口にし、将来なりたい職業を「テレビ局のプロデューサー」などに絞り込むようになったのは、こうした経験が大きく影響したと考えている。
親には、子どもが授業を受けている風景を見にいく参観日があるので、子どもにも、親の仕事場を見に行く機会を設けてみよう。
子どもを職場に連れて行きにくい職場なら、勤務している病院、研究所、役所、銀行など、建物を見せるだけでもいい。子どもにしてみれば、話で聞くだけよりも、実際に目で見て体感したほうが実感が湧くため、その後、親が語る職場の話をにより関心を持って接するようになる。
清水克彦しみずかつひこ
びわこ成蹊スポーツ大学特任教授
文化放送入社後、政治・外信記者を経て米国留学。帰国後、ニュースキャスター、南海放送コメンテーター、報道ワイド番組チーフプロデューサー、解説委員などを務める。大妻女子大学や東京経営短期大学で非常勤講師を…
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