「髪切ったよ」「どんな?」「前髪重めで」「いーじゃん」
たわいもない放課後のおしゃべり。いまの子どもたちは、こんな一言ずつのやりとりを携帯電話のメールで行なう。携帯メールが、友人関係の構築に欠かせない道具となりつつある。
文部科学省が2009年にまとめた調査によると、携帯を持つ中学2年生の3人に1人が、1日30件以上メールのやりとりをしている。仮に1通への返信に2分かかるとすると、1時間以上を割く計算だ。その分、勉強や睡眠の時間は削られる。
なぜ子どもは、友人とのコミュニケーションにメールを多用するのだろうか。「親にバレないから」と言うのはA子。家族に聞かれたくない内容も、携帯メールでなら気軽にやりとり出来る。好きな男の子の話をするとき、固定電話の線を懸命に自室へ引っ張り込んでいた私としては、かなり羨ましい。
時間と場所を選ばない点も、塾に部活にと忙しい子どものライフスタイルに合う。電車やバスの中でも打てるメールは、手軽に友人との絆を確認できる手段だ。
さらに、相手の表情や声を直接受け止めるプレッシャーも避けられる。反応は時間差で文字となって返ってくるだけ。謝りたいときや怒りたいとき、メールで一方的に送り付ける方が気が楽だ。
だが、文字のみのやりとりには弊害も大きい。人の印象を決めるのは話の内容よりも、声のトーンや表情、しぐさなどの非言語的表現であるとされる。これらは文字だけではとても把握できず、誤解を招きやすい。相手の表情を読み取りながらコミュニケーションを取る能力も身に着かない。
仲良しグループでは、友情の深さはメールへの「返信の速さ」で量られる。B子は宿題を始める前、友人に「いまから宿題するから携帯の電源切るね」と伝える。内心面倒くさいと思いつつ、可愛い絵文字も添えておく。以前友人のメールに返信するのを忘れ、「軽く見られている気がして気分が悪い」と責められたことがあるのだ。
C子は友人から届いたメールの内容がつまらなくても、返信の文面に「(笑)」や笑顔の絵文字を付け、面白そうに思っているフリをする。
携帯メールのおかげで、子どもたちはいつでもどこでも、つながれるようになった。だが無難な文章とカラフルな絵文字は、友人関係の「うわべ」だけを飾っているようにも見える。
渡辺真由子わたなべまゆこ
メディアジャーナリスト
放送局報道記者として、いじめ自殺を取材したドキュメンタリー「少年調書」で日本民間放送連盟最優秀賞など受賞。その後カナダのメディア分析所に留学し、メディアリテラシーを研究。 ニュース記者としての長年の…
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