「起きて半畳、寝て一畳」という言葉があります。大きな失敗をしてしまった時や、新しいことに挑戦しようとした時、なぜか、ふと思いつきます。失敗すればスタート地点に戻ればいい、お金や家がなくなっても起きて半畳、寝て一畳でいいというわけです。
「起きて半畳、寝て一畳」というのは説明するほどでもないのですが、人が生活する最低限の広さがあれば十分であるということです。起きて半畳、寝て一畳を推し進めていくと、アウトドアの世界に繋がっていきます。山登りが流行った時期がありますが、3泊4日の山行きなどで山小屋を利用すると、夏場のようなハイシーズン時には、まさに「寝て一畳」の世界になり、雑魚寝なので、プライバシーもない世界になってしまいます。プライバシーを確保したくなるとテントと寝袋持ちで行くと、まさに「起きて半畳、寝て一畳」、自分だけの世界です。
日本では貧しさからだけの「起きて半畳、寝て一畳」だけでなく、たとえ住まいが狭くとも高貴な場合があるということが世間一般に受け入れられています。
古典を遡れば、鴨長明の方丈記です。晩年、鴨長明が日野山に一丈四方の庵を結んだことから方丈記と名付けられています。この庵が鴨長明ゆかりの河合神社に再現されています。この庵、個人的には立派すぎて、少し違和感が残りましたが、組み立てが可能なようにできるおり、移動可能な住宅であったいうことです。このような庵での生活に慣れると、ある意味居心地の良いものかもしれません。鴨長明自身も、庵の生活に慣れ親しむことを戒めているとも言われています。
○ライフサイクルに応じた住宅
このような庵での生活には、生活の技法、ノウハウというものがあるように思えます。最も重要なのは、モノを持たないということでしょうか。まず、モノを持つスペースがないのですから、当たり前のことでしょう。逆に、モノを持たないことから、モノに対する執着などが消えていくのかもしれません。
なによりも良いのは、お金がかからないということです。私の生活信条にシンプル・ライフということがあります。アメリカの住宅は、広くて、これでもかというような感じの住宅が多いように思えます。社会的経済的な成功と住宅の広さが直接リンクしているようで、これでもか、これでもか、という若さを感じるのですが、年をとるとともに感じる年輪というようなものを感じさせてくれないように思えます。
子供を育てるときの住まいには、アメリカ住宅のような若さが必要なのかもしれません。しかし、子供が育ち、家を出、独立すると、夫婦だけの生活では、大きな住まいは必要ではなくなります。そして、終の棲家になると、まさに「起きて半畳、寝て一畳」の世界で十分なように思えます。おまけに、環境にやさしいということもあります。私なら、掃除する面積が小さくて、拭き掃除を含めても、「起きて半畳、寝て一畳」なら一日ほんの5分ほどで終わってしまうのが理想です。すると、毎日のように整理整頓、掃除ができ、いつも気持ち良く健康的です。
インターネットのおかげで多くの蔵書を持たなくてもよいようにもなりました。作家の書棚拝見というような連載企画ものをみると、立派な蔵書があるわけですが、作家ではない、ほとんどの人にとっては図書館に行けば間に合うでしょうし、珍しい本は専門の図書館で十分と思えます。インターネットでは、どこにその本があるのかも教えてくれます。
終の棲家は「起きて半畳、寝て一畳」の庵というのが、私の回答です。そして、「終の棲家」庵をどこにするか、楽しい連想が続きます。
庵が似合うのは緑の多い山中かということになったりしますが、逆に、東京のような大都市の真ん中でもよいのではないでしょうか。ワンルームマンションは、まさに広さからいうと、ぴったりです。
井戸美枝いどみえ
井戸美枝事務所代表
神戸生まれ。関西大学社会学部卒業。 ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士・キャリアカウンセラーとして、相談、講演、執筆活動を行う。複雑なお金にかかわる動きを、かんたんに読み解く経済エッセイストと…
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