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2012年03月05日

アップルパイにメッセージあり

 手みやげの企画は、女性誌だけではなく男性誌でも人気で定期的に特集が組まれていますが、¥1000台で喜ばれる手みやげのリストは常にアップデートしておきたいもの。私もいくつかお気に入りがありますが、親しい方には「マミーズ」のアップルパイをカットしてお持ちします。

 本店が自宅から近いこともあって、焼き立てを買えることにも価値がありますが、凝ったスイーツが沢山ある中、子供の頃、お母さんが作ってくれた安心安全な幸せの味を再現しているのが「マミーズ」。まさに名前の響き通りの懐かしい味を、届けたいと思わせてくれます。

 ひっきりなしにお客様が予約したパイを取りに来る繁盛ぶりにもかかわらず、店舗はまるでお金をかけている風でもなく、スタッフの女性達も家庭科の授業を思い出させるような、白い帽子と白いかっぽう着風のいで立ち。やっと最近になって、お店の名前とりんごの絵のついた箱と紙袋が揃ったばかりです。

 有名人も御用達とメディアに取り上げられるようになって、百貨店の催事にもひっぱりだこ。こんなに繁盛しているのにこの地味さはなんだろう?と思っていたところ、数日前、ニュースで「マミーズ」が取り上げられている番組を偶然観ることに……。

 びっくりしたのは、アップルパイ誕生の秘話。当時、ご主人の借金に途方に暮れて自殺を考え、家の冷蔵庫にあったりんごを見て「死ぬ前にアップルパイでも作って食べよう」と思って作ってみたら、メチャクチャ美味しかった。それで、「これは人に食べさせてみたい」と思って、知人のお店の軒先を借り、1日数千円の販売を始め、今では年商2億の売り上げをあげるようになったとのことでした。自殺を踏みとどまって命を懸けて焼いたアップルパイが、専業主婦だった50才の女性に起業するきっかけをつくったという事実に感動です。

 売れるようになると資金調達が出来て、店舗拡大や、フランチャイズなどで人に任せて行く中、本来の味が落ちていったスイーツをたくさん見て来ましたが、「マミーズ」の奥さんは、今もご主人の借金を返済中なのだとか。借金返済が終わらない限り、お母さんの手作りの味が守られると思うと申し訳ないのですが、消費者としては少々嬉しかったりする複雑な心境です。

 TV放映の翌日にも、ファッションカタログの撮影をしているスタッフに差し入れとしてアップルパイを買いに行ったのですが、思わず奥さんを見つけて、心の中で「1個でも多く買って借金返済に協力します」と思いながら、「頑張ってくださいね」と握手してしまいました。

 子供も大人も大好きな心温まるアップルパイは、実は「死ぬ前に食べてみよう」と思った、半ばやけくそのパワーから生まれたもの。一見、地味で飾り気がないのに、何とも優しく、りんごそのものの味がしっかりと口いっぱいに広がっていく感動は、まさにマミーズの奥さんからの「強く生きていればいいことがあるよ」という、メッセージのように伝わってきます。

中村浩子

中村浩子

中村浩子なかむらひろこ

株式会社ヴィーナスプロジェクト 代表取締役社長

大学在学中より、光文社「JJ」において、ファッション・ライフスタイル担当の特派記者となる。その後、小学館「CanCam」を経て、光文社「VERY」、「姉VERY」、「STORY」の創刊記者を務める。オ…

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