エンゼルスの大谷翔平選手の活躍が大きく取り上げられています。これまでの型を打ち破り、誰もが野球漫画でしか存在しえないと思っていた二刀流という新たなスタイルを実現させる姿は、まさにダイバーシティ時代のニューヒーローそのもの。目が離せない活躍を見せる大谷選手の魅力について、書きたいことは多々あるのですが、それはスポーツライターの方に任せることにして(笑)、このコラムでは二刀流の様にこれまでの常識を覆すようなチャレンジを成功させるにあたって、周囲が心がけるべきこと、大切なことは何か、を考えてみたいと思います。
私はまだ大谷選手が前チームに所属していた頃に、大谷選手のお母様がインタビューで答えていたコメントがとても心に残っています。「初めの頃は翔平はチームの皆さんに可愛がって頂けるのかな、と心配した時期もありました。二刀流なんていってたし…。」
日本中から求められてプロ入りし、大人気の大谷選手には無用の心配に思えて驚きました。実際に、チームに溶け込んで愛され、輝きを放っていたのは皆さんもご存知の通りです。しかし近くで見ていたお母様にはそんな不安がよぎってしまう程、それまで様々な声が聞こえたこともあったのかもしれません。現に前人未到の目標を掲げていた大谷選手には「二刀流なんてプロの厳しさがわかってない。」「不可能だ。」等の報道や専門家の声も根強くありましたし、アメリカへ渡ってからも結果が出せない時期には、より厳しい批判もあがっていました。
人は基本的に、自分と他者が同じような感覚で物事を理解し、感じ、価値観を持っていると無意識に考えているため、自分が普通だ、常識だ、と考えることは周囲も同様に感じると思ってしまいがちです。そのため、それが通用しない相手に出会うと、焦りや嫉妬、苛立ち、怒りや驚き、という感情が湧いてきてストレスを感じてしまう、という面を持っています。なので自分とは違う価値観や考え方は否定してしまった方が楽、特に二刀流はこれまで誰も現実には見たことのない夢のような目標だったので、大谷選手が浴びせられた否定論は、当然といえば当然だったのかもしれません。
しかしそんな中でも、きちんと大谷選手の才能や可能性を見据え、常識では考えられない目標を理解し、サポートしてきた家族や指導者が現れ、私たちは今、大谷選手の素晴らしいプレーに興奮、感動することが出来る訳です。勿論、大谷選手自身の努力や信念が雑音を乗り越え、切り開いてきた部分も大きいと思います。しかし、やはりいかに大谷選手でも、誰もが二刀流を一笑に付してしまっていたら、実現は難しかったでしょう。そう考えると、プロの世界での実現を信じて理解・指導し、サポートしてきた方々への感謝の念を禁じ得ません。
こうやって考えていくと、少し怖くなってしまいます。私たちは知らず知らずのうちに、自分の枠に捉われて、相手の可能性を否定してしまっていないか。自分とは違う相手の価値観を理解し認めていくことが、二刀流のような奇跡を実現する上で欠かせない、必要で必須な取組であり、それが分かれば分かる程、それを実際に適切なタイミングで実現できるかどうか。前述のように自分の常識とは違う多様な価値観の理解はストレスを伴うため、自分の常識が他者にとっても常識だと考える方が疲れずにすみます。そうやって知らず知らずのうちに自分の思考が楽な方に働いてしまうことで、ひょっとすると他者の成長や、大きな可能性を奪ってしまうことにもなりかねないのです。
常に多様な価値観を理解する努力を心がけ、柔軟な思考や広い視野が持てているか、自分に問いかけていかなくては、と身の引き締まる思いです。違いを認めて受け入れることは難しいけれど、それを乗り越え、自分にはない相手の価値観をきちんと受容することができれば、相手の可能性を伸ばすことにつながる。そしてそれは、家庭や学校、職場で、誰もが、これまでイメージすらできなかった奇跡のような活躍ができる社会を作ることにもつながっていく…。
それこそが、“SHO TIME”が私たちに教えてくれた、大切なことなのでは、と思うのです。
渡邊洋子わたなべようこ
公認心理師
大学卒業後、株式会社博報堂に入社し、ラジオ局、新聞局で勤務。ラジオ局ではFM局の番組のスポンサー業務を、新聞局では読売新聞担当として新聞広告業務に携わる。その後出産のため退職し、専業主婦を経験。200…
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