私は仕事柄、部下の方や思春期のお子さんとうまくコミュニケーションが取れない、というご相談を頂くことがよくあります。ご相談の多くは、ああしろ、こうしろ、と指示をすると煙たがられるし、かと言って、褒めようとしてもそれほどではなかったり、褒めてもなんだか言葉だけが空回りしてしまう、というお話だったりします。本当に素晴らしい!と思っている場合はいいのですが、褒めた方が上手く廻るのでは?と思っている場合、あまり良いコミュニケーションにならないことがほとんどです。なので、そういう場合は「褒めなくて大丈夫」、と私はお答えしています。
一時期 “褒め育て”という言葉がほぼ神話化した時期もありましたが、私はそれには少し疑問を持っています。心理学では“アンダーマイニング効果”といって、例えば子供は絵を書くことが楽しくて、好きで絵を書いているのに、大人がそれに対して報酬(ご褒美や褒め言葉等)を与えることによって、今度は報酬がなければ絵を書かなくなってしまう、という現象があることが報告されています。そもそもやりたいからやっていた行動であるはずなのに、いつの間にか物質的な報酬や評価を得ようとする行為にすり替わってしまう訳です。また常に“良い”“悪い”という“評価”を加えるコミュニケーションを取っていると、それが例え、“良い”と評価されていたとしても、“折角褒められたんだから、もっと頑張らなければ…”“評価されなくなったらどうしよう”、とプレッシャーになってしまうことも少なくありません。
そこで、私は敢えて評価を加えない“見守りコミュニケーション”をお勧めしています。見守りコミュニケーションとは、相手の行動で、好ましいと思える行動について、そのまま言葉で伝えてあげるだけのコミュニケーションです。お子さんが積極的に勉強していたら、「勉強してるね。」部下の方が朝早く出社していたら、「朝早く来てるね。」というだけです。だから良いね、などという必要はありません。
人は誰かが自分の行動を見ていてくれるだけで、嬉しく感じるものです。それが自分の頑張っていることだったりすればなおのこと、心強く、励まされているように感じます。コミュニケーションにおいて大切なことは、難しく考えすぎる必要はなく、ありのままのその人の前向きな姿勢を見守っていくことがパワーを生み出していくのではないか、と私は思っています。
渡邊洋子わたなべようこ
公認心理師
大学卒業後、株式会社博報堂に入社し、ラジオ局、新聞局で勤務。ラジオ局ではFM局の番組のスポンサー業務を、新聞局では読売新聞担当として新聞広告業務に携わる。その後出産のため退職し、専業主婦を経験。200…
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