お盆も終わり、学生のリポートの採点をフウフウ言って終わらせたあと、やっとのんびりする時間があったので、毎晩、深夜2時過ぎまで見入ってしまった番組がある。
NHKのBS2で放送されていた、「アクターズ・スタジオ」である。ご覧になった方もいらっしゃるかと思うが、ハリウッドのスターや監督が60分のトークでかなり、本音でこれまでの自身の奇跡を振り返る。
私が見た回はジョン・トラボルタ、バーブラ・ストライサンド、トム・クルーズ、その他、総集編での大勢のスターの一言。
仕事に取り組む姿勢としては非常に共感を得られ、毎日お陰でモチベーションが上がりっぱなしだった。いかにして本番を迎えるか。それはそれは、あらゆる手を使って、準備をする。自分の演じる役の職業について実地で勉強したり、性格、家族構成から連想して、それまでの人生年表を作ったり。日頃の生活でもこの役の彼なら、このニュースをどう受け止めるだろう?という感じで。
準備を十分にやれば、緊張することもなく、自信を持ってその役に臨める。その逆の場合は不安が付きまとう。これは、自分の仕事にも当てはまるし、皆さんの仕事もそうだと思う。やるだけやれば、開き直れる。
この放送の中で、興味深かったのは人生の中で上手く行かなかった時期の話だ。それらの話を聞いて、相田みつをさんの「道」という詩が頭に浮かんだ。
「道」
長い人生にはなあ どんなに避けようとしても
どうしても通らなければ ならぬ道というものが あるんだな
そんなときはその道を 黙って歩くことだな
愚痴や弱音を 吐かないでな
黙って歩くんだよ ただ黙って 涙なんか見せちゃダメだぜ
そしてなあ そのときなんだよ 人間としての
いのちの根が 深くなるのは
(相田みつを)
ジョン・トラボルタは私が学生時代「サタデー・ナイトフィーバー」や「スティン・アライブ」で一世を風靡した。しかし、私が社会人になる頃から、すっかり彼の名前を聞かなくなった。第一線の映画から10年もの間遠ざかっていたそうだ。
その間、彼は旅客機の免許を取ったり、世界中様々な知人・友人を訪ねて歩いたりしたという。引退もささやかれたが、自分の評価は人が決めるものではないと小さな仕事であっても厳しい時代、演じ続けた。
一方、スクリーン・デビューしてからのトム・クルーズの活躍は周知のことだが、彼の幼少の頃の話は今の明るい彼からは想像もつかなかった。
12歳で両親が離婚した後は生活に困窮し、母親は一日に3つも仕事をして、4人の子どもを支えた。その年のクリスマスはプレゼントに<物>を買うことができなかったので、お互いに相手を決めて、家族内で自作の詩をプレゼントし合ったとか。
そんな彼が高校時代に役者を志し、義父からもらった900ドルを握り締めてNYへ向かい、今の成功を収めた。幼少時代の苦労や家族を通して学んだ誇りが彼の根を育んだのか。
上に向かって伸びていけない期間は誰にでもある。その時にしっかりと地下に向かって根を広げておくことが大切だ。しっかりとした根があれば、のちにどんどんと上に向かって木は伸びてていける。その停滞期がいつかは人それぞれだが、結果が出ないその時に何をするかが大切なのだと教えてくれた。彼らはどちらも人間好きだし、仕事の合間もスタッフ、共演者とのコミュニケ-ションを大切にするタイプだ。
最後に人間観察の面で印象に残ったエピソードを紹介しよう。
トム・クルーズはよく周りから「そんなに有名になったら、制約されることが多くて大変でしょう。普通の人みたいに過ごしてみたいでしょう」と言われるそうだ。しかし、彼は答えるそうだ。「普通の人?僕はこれまでこれが<普通の人>だと言う人に出会ったことがない」人それぞれにドラマがあり、平均値の人を作り出すのはナンセンスだと言う意味だろう。
一方、トラボルタは普段の生活の中で、退屈だと感じるか感じないかは、自分の向き合い方次第だと言う。「タクシーに乗ったときにそのドライバーは取り立てて何の興味も引かないタイプの男だった。しかし、僕は散々彼に話しかけ、名前や家族や趣味について聞いていったら、とても魅力的な奴で、車を降りるときには親友になっていたよ」あの茶目っ気のある笑顔で話す。
私はあらゆる仕事の中で、インタビューの仕事が1番好きだ。ある意味、俳優さんに似ているが、「人の人生から多くを学ぶことができるから。」苦しい時代、人を救うのもまた人間だ。
木場弘子きばひろこ
フリーキャスター
フリーキャスター/千葉大学客員教授千葉大学教育学部を卒業後、1987年 TBSにアナウンサーとして入社。在局中は同局初の女性スポーツキャスターとして、『筑紫哲也ニュース23』など多数のスポーツ番組を担…
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