2011年の日本経済は順調なスタートを切った。日本の株価に大きな影響を与える米国の株価(NYダウ)が年明けから上昇が続いたのをうけて、日経平均株価も好調な滑り出しとなった。こうした株価の動きに見られるように、2011年は米国など海外経済の回復持続が日本経済を下支えするという構図が鮮明になりそうだ。
米国と並んでカギを握るのが新興国だ。さまざまなリスクや不安定要因はありながらも、新興国各国は基本的には成長を持続していくと見られる。今後は中国などに続く他の新興国も成長の度合いを強めていくことになるだろう。
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家電が急速に普及――液晶テレビ、携帯電話、冷蔵庫など”三種の神器”
そんな中で注目を集めている国の一つ、ベトナムを昨年末に訪れた。最初に訪れたホーチミン市の中心街はクリスマス用のイルミネーションなどで華やかな雰囲気に包まれ、買い物客であふれかえっていた。家電量販店の店頭には40インチ以上の大型液晶テレビをはじめ、パソコン、携帯電話などが並び、日本とあまり変わらない光景を見ることが出来た。ベトナムでは家電が急速に普及し始めており、特に都市部ではテレビ、携帯電話、冷蔵庫の普及率が高まっているという。ちょうど日本の昭和30年代の「3種の神器」を思わせる。
普及率が高いといえばもう一つ、バイク。通勤や買い物の足としてすっかり市民の生活の一部となっている。国内の年間販売台数は約300万台、乗用車販売の10倍以上に達する。街中の道路はバイクの洪水で、道路を横断するのは一苦労だ。だが交差点で一斉に走り出すバイクの波は、これから経済的に爆発しそうなベトナムのエネルギーを感じさせた。
ホーチミン市の外周部では新都市開発が進められている。その一つ、市の中心から車で約20分のフー・ミー・フン地区に行くと、広大な区域に富裕層や外国人向けの超高級マンションが何棟も立ち並び、おしゃれな飲食店や商店が続いていた。道幅は非常に広く、町はきれいに整備されて、ベトナムの最先端を行く街という印象だった。
さらにホーチミン市から南東へ約40kmの沿岸部では大規模港湾の整備と、鉄鋼や石油化学などを中心とした工業開発が進行中だ。高速道路や地下鉄の建設も計画されており、ホーチミンとハノイを結ぶ高速鉄道や原子力発電所などの大型プロジェクトが目白押し。まさに本格的な経済発展に向かって走り出したところである。
ベトナムの実質GDPはリーマン・ショック以前は毎年7~8%台の成長を続けていたが、2008年は6.2%、2009年は5.3%と鈍化した。ただ他の新興国やASEAN諸国と比べてもリーマン・ショック後の落ち込みは小幅にとどまっている。2010年の成長率は6.5%、2011年も6.8%と好調が続く見通しだ。国民一人当たりGDPでは約1100㌦で、まだ中国の3分の1程度だが、ホーチミンではすでに中国並みの水準にまで向上している。
外国企業の進出相次ぐ――日本企業も積極的
このように成長が続くベトナムに進出する外国企業が増えているのも、最近の特徴だ。中でも昨年、インテルがホーチミンに新工場を建設し半導体の生産を始めたことは注目を集めた。ベトナムに大手半導体メーカーが進出したのは初めてで、これに伴って今後は関連部品メーカーの進出を含め、ハイテク産業の発展も期待される。
もともとベトナムへの進出では韓国企業が先行している。サムスン電子とLG電子は家電や携帯電話の生産と販売を拡大させており、大型家電量販店の売り場では韓国ブランドの薄型テレビが目立つところに並べられ、多くのスペースを占めていた。鉄鋼や建設、小売などでも韓国企業は存在感を見せつけていた。
日本企業も積極的に動いている。昨年、鉄鋼大手の新日鉄とJFEが相次いで鋼材工場建設や現地企業の買収に乗り出したほか、自動車では古くから現地生産しているトヨタ自動車と本田に続いて、日産自動車が欧州企業との合弁による現地生産を始めた。またファミリーマートが日本のコンビニエンスストア業界で初めてベトナムに進出し、これまでにホーチミン市内で4店舗をオープンさせた。同社は「今後5年間で300店舗の展開を目指す」という。現在、ベトナムに進出している日本企業は約870社(在ベトナム日本商工会加盟企業数)となり、在留邦人は1万人近くに達している。
このようにベトナムへの進出が活発化している背景の一つは、中国リスクだ。特に昨年の尖閣沖での漁船衝突事件やノーベル平和賞をめぐる中国の対応などから、日本や欧米の産業界では中国への投資拡大に対し慎重な姿勢が強まっている。そこで新たな投資先として、中国に近く、中国以上に人件費が安く、かつ経済発展の見込めるベトナムが脚光を浴びているといいうわけだ。ジェトロ・ハノイ事務所によると、昨年は日本企業からの問い合わせや調査依頼が増加し、特に尖閣での漁船衝突事件以後は急増したという。ベトナムは中国と同じように共産党政権だが、「社会の安定度がある」(ある日本企業駐在員)という。教育水準が高く、ベトナム人は勤勉で手先が器用と評価する声もある。
インフラ整備、インフレ抑制など課題も
だがその一方で、ベトナムには多くの課題と懸念があるのも事実。現地の企業関係者が口をそろえて指摘していたのが、第一にインフラ整備がまだ不十分なことだ。特に電力供給が不安定で、経済成長に伴って電力の需要が増えているにもかかわらず供給が追いつかず、停電もしばしばだという。第二にインフレ。消費者物価上昇率は2008年には23%にも達していた。2009年は6.9%に鈍化したものの、2010年は8%台と、GDP成長率を上回る物価上昇が続いている。人件費も毎年10%以上上昇している。
第三に貿易赤字と対外債務の拡大だ。2010年の貿易赤字は120億㌦、GDPの8.3%に達した模様で、対外債務は2009年に366億㌦と、3年間で2倍近くに膨らんでいる。こうしたことから昨年12月には大手格付け会社が相次いでベトナム国債を格下げし、国際金融市場に警戒感が広がった。ベトナム通貨、ドン安も進行している。
このほか、産業の裾野が小さいため、部品調達を国内でまかなうのが困難との声も聞かれた。ベトナム政府は外国企業の誘致のため、税の減免など優遇措置をとっているが、裾野産業の育成はまだまだのようだ。その点では裾野の広い自動車産業の発展がカギになるが、ベトナム政府は自動車産業の育成方針を掲げる一方で、道路の渋滞抑制との理由で自動車関連税を相次いで引き上げており、これが自動車産業の発展にブレーキをかける結果になっているという。
ベトナム経済のポテンシャル(潜在力)は大きいが、これらの問題点を抱えたままでは本格的なテイクオフは難しい。この1月にはベトナム共産党の党大会が開かれ、党と政府の新しい首脳人事が決まる。新指導部が前述の課題を克服し成長を持続させる一貫した政策を推進することが求められている。
岡田晃おかだあきら
大阪経済大学特別招聘教授
1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…
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