米国の追加金融緩和観測後退で株価急落
今年に入って回復していた株価が4月になって突然崩れ、日経平均株価は再び1万円の大台を割ってしまった。果たして株価回復はもう終わったのだろうか。
最近の株価の動きを振り返ってみると、1月中旬に8300円台だった日経平均株価は1月下旬ごろから急速に上昇し始め、3月14日に1万円の大台を回復した。3月27日には1万255円と、震災後の高値を更新したのだった。その主な要因は、
(1)日米が金融緩和を強化した
(2)欧州経済危機がひとまずヤマ場を越えた
(3)為替相場が円安に戻った
――の3つだ。
第1の金融緩和については、1月25日にFRB(米連邦準備理事会)が「少なくとも2014年末までゼロ金利を続ける」と表明し、続いて2月14日に日銀が追加金融緩和策を決めるとともに「望ましい物価安定の目途」を1%と明確化した。これをきっかけに市場に安心感が広がった。
第2の欧州経済危機については、ギリシャ国債が大量償還日となる3月20日がヤマ場といわれていたが、3月9日までにギリシャ政府と債権団による債務削減交渉がまとまった。欧州は当面の危機を回避した。
第3に、その結果として為替相場でユーロが買い戻されるなど円高修正の動きが顕著になった。2月上旬に1㌦=76円台だった円相場は、1ヵ月あまりで84円台まで下落した。
しかし4月に入り、株価は一転して下落し始めた。4月4日に再び1万円を割り込み、その後も連日の下げが続いている。4月9日には9500円台まで下落し、1か月前の水準に逆戻りしてしまった。株式市場は調整色が強まっている。
この最大の原因は、米国の金融緩和観測が後退したこと。4月3日に発表された前回3月13日開催のFOMC(連邦公開市場委員会)の議事要旨で、追加金融緩和に前向きな委員が少なかったことがわかったためだ。これで追加緩和への期待が一気にしぼみ、世界的な株安となった。米国の追加金融緩和観測はこの間の株価回復の最大の要因になっていただけに、その期待が剥げ落ちたことのショックはたしかに大きかったといえる。
万能ではない金融政策
それでは、今後の見通しはどうか。4月6日に発表された米雇用統計では、非農業部門の雇用者数が前月比12万人増にとどまり、予想を大きく下回った。このため米国景気の先行きに不透明感が台頭し、その一方で金融緩和観測が一部で再浮上している。このように当面は米国の景気と追加金融緩和をめぐって一喜一憂する展開が続くだろう。ただ追加緩和が行われるとしても、それだけで息の長い回復につながるかどうかはやや疑問だ。
なぜなら、金融緩和は決して万能ではないからだ。経済政策としては通常、金融政策と財政政策が車の両輪とされている。金融政策は中央銀行、財政政策は政府の仕事だが、今は各国とも巨額の財政赤字を抱えているため、政府が財政出動するには限界がある。そのためどうしても中央銀行の金融政策に頼らざるを得ないのが現状だ。市場が金融政策の動きに神経質になるのもそれが原因なのだが、しかし本当にそうだろうか。
今こそ政府の出番~真の成長戦略を
「財政出動型ではない経済政策」の余地がもっとあるのではないか。日本なら例えば、思い切った規制緩和、内外企業の立地促進、税制・法制面からの投資誘導などが考えられる。当面の景気対策にとどまらず、経済の活性化とデフレ脱却にもっと知恵を絞り、成長を取り戻すための戦略と方針を示す――これこそが政府の役割のはずだ。
だが残念なことに、現在の民主党政権はそれに対する問題意識が希薄なようだ。今国会の最大の焦点である消費税引き上げ法案をめぐり、民主党内で「実質2%・名目3%成長」を増税実施の条件とするかどうかが議論の的となったが、報道を見る限り、それだけの経済成長をどうやって実現するかの議論は行われた形跡はない。
消費税引き上げが避けられない財政事情であることは確かだが、同時に経済活性化とデフレ脱却がなければ日本経済はジリ貧となり、財政もむしろ一段と悪化するおそれがある。今、必要なのは真の成長戦略だ。成長戦略とは単に2%とか3%などの成長率の目標を数字で示すことではない。前述のような、デフレ脱却と持続的な経済成長のための方針と具体策を明確にすることだ。
デフレ脱却などに関連して「政府と日銀の協調」がしばしば話題になる。たしかにそれは不可欠なことで、その観点からこれまで「日銀の金融緩和が不十分」と批判されることが多かった。しかし今回、日銀は2月に追加緩和と物価安定の目途1%との方針を打ち出して、一歩前へ踏み出した。今度は政府の番である。
岡田晃おかだあきら
大阪経済大学特別招聘教授
1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…
政治・経済|人気記事 TOP5
中小企業の生き残り戦略~鯖江の眼鏡業界の挑戦~
岡田晃のコラム 「今後の日本経済-岡田晃の視点」
EUの厳しい環境規制
進藤勇治のコラム 「進藤勇治の産業・経済レポート最前線」
インフレ
藤田正美のコラム 「今を読み、明日に備える」
メディア
藤田正美のコラム 「今を読み、明日に備える」
日本の農業保護政策
進藤勇治のコラム 「進藤勇治の産業・経済レポート最前線」
講演・セミナーの
ご相談は無料です。
業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。