ヤジ発言後の対応は最悪パターン
最近、東京都議会のヤジ問題や兵庫県議会の”号泣議員”など、地方議会があらぬ形で注目を集めている。東京都議会のヤジの内容が問題なのはもちろんだし、兵庫県議の政務調査費の使い道が不明朗なことは明白だが、本コラムでは別の角度からこの問題に注目してみた。
それは問題が表面化した後の当事者の対応だ。これを企業の不祥事など危機管理の観点から見ると、実に重要な教訓を与えている。一般的に企業は不祥事について、①不祥事の未然防止②不祥事が起きた後の対応――の二つの側面から危機管理をする必要がある。
まず①の未然防止は当然のことだが、それと同時に②が重要なのだ。時には、不祥事そのものの程度より、不祥事が起きた後の対応いかんで問題が大きくなることがある。例えばウソをついたり隠したりして、かえって傷口を広げた例は数多くある。逆に素早く適切に対応した結果、不祥事によるダメージを最小限に抑えたケースは少なくない。
まず今回の都議会のヤジ問題。ヤジの内容自体も問題だが、最初に問題になった時点で鈴木章弘都議がすぐに名乗り出て謝罪していれば、ここまで問題は広がらずにすんだかもしれない。しかし鈴木都議は数日間、名乗り出なかったばかりか、その間にテレビカメラの前で「ヤジは議員辞職に値する」とまで言ってのけていた。「自分ではない」ことを強調するつもりの発言だったのだろうが、これは真実が明らかになった暁には自分の立場を一段と苦しくする発言であることは言うまでもない。言う必要のない発言だった。
メディアではヤジの発言者が誰だったのかという犯人捜しが始まり、ついには海外メディアまでが大々的に報じる事態となったのだった。
そして鈴木都議は数日後になって記者会見を開き、ヤジを認めた。否定しうそをつき、さんざん大騒ぎになった後になって、事実を認める――不祥事が起きた後の対応としては最悪のパターンである。
その日の記者会見では「塩村議員が早く結婚してくれればいいのに、との思いから、あのような発言をしてしまった」とも言い訳したが、その前のテレビ取材では「塩村議員が結婚しているかどうか知らないのだから、あのようなヤジを飛ばすわけがない」などと、ウソを重ねていたことが明らかとなった。記者会見の内容も信頼性に欠けるものだった。
流れを決める「初動3原則」
こうして見ると、不祥事が起きた後の対応で間違えるといかに事態が深刻化するかを示している。事後の対応では、特に初動が流れを決める。私は長年、数多くの企業を取材してきた経験から、不祥事が起きた際の初動の基本を「初動3原則」と名付けている。「うそをつかない、隠さない、先延ばしにしない」の3つだが、今回の鈴木都議の対応はまさにその逆だったわけだ。
鈴木都議だけではない。都議会自民党の動きも鈍かった。つまり初動で失敗したと言わざるを得ない。不祥事が表面化した時には、まず世間常識に照らして事の重大さの程度を瞬時に判断して対応することがカギとなるが、ここで判断を誤ると初動でつまずくことになる。都議会自民党も、まさにそのケースだったようだ。
一方、”号泣県議”のケースはもっと明白だ。あの号泣がなければ、この問題は新聞のローカル版、テレビのローカルニュースで報道される程度で終わっていたかもしれない。それがあの号泣によって、全国に放送され、繰り返し映像が流れることになった。
件の県議が号泣したのは感情が高ぶったせいか演技だったのかは分からないが、あの記者会見でなすべきだったことは、政務調査費の使い道についてきちんと説明し、説明できないのなら謝罪するなり、何らかの対応を示すことであった。しかしそれをせずに号泣した結果、さんざん話題にされた挙句、議員辞職に追い込まれ、刑事告発まで受けることになったのだから、号泣は何の効果もなかったどころか、逆効果でさえあったわけである。
影響大きい記者会見
企業の不祥事で企業トップがあのような姿を見せることは考えられないが、少なくとも記者会見での言動は極めて大きな影響力があるということを肝に銘じる必要がある。
何年か前、食中毒事件を起こした食品メーカーの社長が、会見に詰めかけた記者たちに「私は寝てないんだ!」と怒鳴るという”事件”があった。その様子はカメラに収められてテレビで放送され、社会の批判は頂点に達した。
記者会見の席で、横から「頭が真っ白」とささやいて話題になった女将もいた。この料亭はこの事件が原因で廃業に追い込まれた。
逆に不祥事を起こしたケースでも、記者会見を誠実に行い批判が収まったケースもある。
このように不祥事が起きた後の対応は企業の命運を分けるのである。企業経営者やコンプライアンス担当者は、今回の都議会ヤジ問題や号泣県議のニュースを「地方議員はいい加減だなあ」とか「ばかだなあ」などと笑って見ているだけはいけない。地方議会での出来事も、企業の危機管理の生きた教材になりうるのである。日頃から、ほかの分野で起きたニュースにもよく目を配り、常に研究するよう心がけることが必要である。
岡田晃おかだあきら
大阪経済大学特別招聘教授
1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…
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