株価は史上最高値圏、雇用は改善
米国経済の現状と言えば、「地盤沈下が続いている」「景気回復のペースは鈍い」といったイメージを持つ人が多いのではなかろうか。確かにそれは間違いではない。しかし一般的に考えられている以上に米国経済の実態は強くなっている。以前の本コラムで、米国経済はリーマン・ショックを経てむしろ強くなっていることを指摘したが(Vol.37『実は強くなった米国経済』=2013年12月10付け)、その動きは続いており、ここで改めて強調したい。
それを示す一例が株価だ。ダウ平均株価は7月に初めて1万7000㌦台に乗せ、その後一時、下げる場面があったものの、ここへきて再び1万7000㌦台を回復し史上最高値圏となっている。多くの機関投資家が運用の目安にしているS&P500も初めて2000ポイントをつけて連日の史上最高値更新、ナスダック総合株価指数はITバブル期の2000年3月以来、14年5か月ぶりの高値をつけている。
これは市場が米国景気の強さを読んでいるからに他ならない。最近発表された各種経済指標を見ても、景気の好調さを示すものが並んでいる。特に目立つのが雇用の改善だ。8月初めに発表された7月の雇用統計によると、景気動向を敏感に反映する非農業部門雇用者数は前月比20万9000人増となった。これで景気回復の目安とされる「前月比20万人増」を6か月連続で上回った。リーマン・ショック後で前月比増加数が20万人を上回ったのは、これまでは3か月連続が最長だったことを考えると、現在の雇用改善の着実ぶりがよくわかる。
雇用は米国経済の中で最も回復が遅れているとされてきた分野だ。その雇用がこれほどまでに改善しているということは、景気全体の回復持続を示している。
FRBは今年に入ってから量的緩和(QE3)を段階的に縮小し始めており、来年には利上げを開始するとの観測が出ているが、それも景気好調が背景にあるからだ。
3つの構造変化で強さを取り戻す
さらに重要なことは、この景気回復が一時的なもので終わらない可能性が大きいことである。景気回復という循環的な動きの底流で、構造的な変化が起きているからだ。それは主に3つの点で見ることができる。
第1はIT革命だ。周知のようにITの技術革新はととどまるところを知らない。1990年代後半から2000年にかけてITバブル、その後はITバブル崩壊と言われたが、バブルは去ってもIT革命は進化し続けた。ITのさらなる技術革新は数多くの創造的な製品やサービスを作り出し、新たな産業や雇用を生み出して、どんどん広がっている。それが経済の好循環をけん引しているのである。
第2はシェール革命の影響だ。安価なシェール・オイルやシェール・ガスの国内生産が増加し、燃料費や原材料コストが大幅に低下している。これが企業の生産性向上と競争力回復につながっているのだ。また中東産原油などの輸入が減少しているため、米国の貿易赤字・経常赤字が急速に減少し始めている。シェール・ガスの輸出も一部始まっている。膨大な経常赤字は米国経済の最大の構造的弱点となっていただけに、これはきわめて重要な変化だ。
第3は製造業の国内回帰の動き。以前、アップルが米国内で生産を再開するとのニュースは話題を呼んだが、最近は自動車、石油化学、製鉄、航空機など米国の基幹的な製造業で工場建設や設備投資が相次いでいる。前述のIT革命やシェール革命がその背景だが、他に中国シフトの見直しといった要因もある。いずれもまだ部分的な動きではあるが、国内回帰の流れは今後も広がりそうだ。
これらの変化によって米国経済は構造的に強さを取り戻しつつあるというのが現在の姿だ。雇用の改善も景気の回復も、これが背景にあるからこそ持続しているのである。
「循環」と「構造」がキーワード
米国経済に限らず経済というものは、景気動向という循環的な動きと同時に、前述のような構造的な変化を見る必要がある。その観点から言うと、現在の米国経済は循環的な面からも構造的な面からも上昇基調にあると言える。
したがってこの流れがそう簡単に崩れるとは思えない。もちろん循環論からいえば、景気の好不況の波は必ずやってくるものであり、オバマ大統領の残り任期が少なってくる来年後半以降にそれが現実になるかもしれないと見ている(これについては別の機会に詳しく論じたい)。しかしそれでも前述の構造変化が続く限り、景気後退はあったとしても一時的なものに終わり、短期間で再び景気拡大基調に戻ることは十分可能だ。中長期的に見れば米国経済はむしろ強さを持続するとの展望を描くことができる。
日本ではどちらかと言えば米国経済に対して悲観論や慎重論が多いように思う。メディアの報道も、株価が急落したり経済指標が悪化したりすると大きく扱う傾向があり、リーマン・ショックや新興国の経済成長などで「米国の時代は終わり」などといった論調も目立っていた。しかし米国を侮ってはいけない。弱さを抱えていることは確かだが、前述の通りむしろ強くなっている面があるわけで、米国経済にはそうしたダイナミズムが感じられる。それが今なお世界経済をリードし続ける地力とも言えるものだ。
そしてその米国経済の動向が日本経済にも大きな影響を持つことは言うまでもない。アベノミクスの成否も相当程度は米国経済にかかっていると言えるが、アベノミクス自体も実は循環的な景気回復だけでなく、「デフレ脱却と日本経済再生」との目的を見てもわかるように、日本経済を構造的に強くすることを目指している。
「循環と構造」――日米ともに、これをキーワードに経済の先行きを見ていきたい。
岡田晃おかだあきら
大阪経済大学特別招聘教授
1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…
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