日経平均株価が15年ぶりの高値更新を続け、ついに2万円の大台を射程距離に捉えた。2月19日に、2007年7月につけていた高値(1万8261円)を更新して15年ぶりの高値をつけたが、その後も上昇の勢いは衰えず、3月18日は1万9544円となった。本コラムで昨年末、「2015年は2万円を回復する年になる」(Vol.47)と書いたが、それが実現するのはもう時間の問題だろう。
このことの持つ意味はとてつもなく大きい。今回の株価回復は単なる「回復」にとどまらず、長期的な上昇相場の新たな段階に入ったことを示している。日本経済は長年の低迷から脱して歴史的な転換を遂げようとしており、2万円回復は日本経済の本格復活を告げる号砲となるだろう。
過去3回の株価回復と今回の決定的な違い
バブル崩壊以来の株価の動きを振り返ると、今回の上昇以前に3度の回復局面があった。今回は4回目となるわけだが、過去3回と今回とでは決定的な違いがある。
これまでの株価上昇局面の1回目は1996年6月までで、その時の高値は2万2666円だった。2回目は1999~2000年のITバブル期で高値は2万833円(2000年4月)、3回目は2007年7月までで高値は1万8261円だった。この3回とも、前回の高値に達しないままピークを迎え、その後は下落するという動きを繰り返してきた。グラフの通り、過去3回の高値を線で結ぶと右肩下がりのラインになる。つまり長期的には下落トレンドから脱することができなかったのである。
日経平均株価の長期的推移
(1)1996年6月 | 2万2666円 |
(2)2000年4月 | 2万0833円 |
(3)2007年7月 |
1万8261円 |
ところが今回は前回の高値を初めて上回った。高値を更新した2月19日以後も上昇は続き、今や2回目の高値をも視野に入ってきているのである。これは明らかに長期トレンドが「下落」から「上昇」に転換したことを示している。
過去3回の回復局面と今回を比べると、経済状況にも決定的な違いがある。過去3回はいずれも景気対策や米国の景気拡大などに助けられて一時的に景気が回復していたものの、バブル崩壊によって生じていた不良債権問題、日本企業の体力低下、さらにはデフレなど構造的な問題を抱えたままだった。つまり株価回復は「偽りの夜明け」だったのだ。
ところが当時の政府あるいは日銀は、「これで景気は回復した」と判断してしまった。1回目の高値をつけた1996年は、橋本内閣が消費税の5%への引き上げを最終決定するとともに、所得税などの特別減税の廃止、国民保険料の引き上げなど財政緊縮策を打ち出した。
2回目の2000年は、4月に株価が高値をつけた頃から日銀はゼロ金利解除の姿勢を打ち出し、その年の8月に政府や有力エコノミストの反対を押し切ってゼロ金利解除を実施した。
3回目の2007年の際も、日銀の金融引き締めへの転換が株価の上昇を終わらせる一因となった(主因はサブプライム危機だったが、日銀の金融引き締めの影響も無視できない)。
つまり当時はいずれも、バブル崩壊によって傷んだ日本経済の構造的な問題が解決していなかったにもかかわらず、一時的な景気と株価の回復を「本物の夜明け」と見誤り、政策の支えをはずしたことで、景気と株価の回復が終わりを告げていたのだった。
景気回復は本物~企業の競争力も回復
これに対して今回の違いはまず、景気回復が「本物」だという点である。昨年4月の消費増税以降は足踏みが続いていた景気は昨年末あたりから持ち直し始め、ここへきて回復の動きが鮮明になってきている。訪日外国人の増加、原油安のプラス効果が出始めるなどの追い風も加わっている。
特に注目されるのは賃上げだ。春闘ではトヨタ、日産、本田などの自動車や電機の大手が過去最高のベアを回答したことで、全体でも昨年以上の賃上げとなる見通しとなっている。このため4月以降は実質賃金がプラスになる可能性が高くなっており、それによる消費拡大が期待される。
このように景気回復の動きは今後一段と広がる見通しだが、同時にそれはデフレ脱却につながるものだ。つまり構造的な問題を解決しつつあるということでもある。
日本企業の体力も強くなってきた。ひと頃は「日本企業の競争力は衰退した」などと言われたものだが、今年3月期は過去最高の利益を達成する見通しで、積極的なM&Aやグローバル展開、増配や自社株買いなど株主還元の充実など、経営の構造改革と競争力強化が進んでいる。自動車や電機の大手各社が過去最高のベアを回答したことも、それだけの賃上げができるほど収益力が向上したことを示している。
また政策の面でも過去3回とは正反対だ。安倍政権は「デフレ脱却と日本経済再生」を目的とするアベノミクスを引き続き推進しているし、日銀も量的緩和を堅持している。金融引き締めに転じる可能性は今後かなりの期間は考えられず、逆に追加緩和の可能性の方が大きいぐらいである。
海外など懸念あるが、それでも上昇続く
こうしてみると当分の間、国内では株価上昇を終わらせる要因はほとんど見当たらない。懸念材料は主として海外だ。米国の利上げ、欧州経済の低迷、中国の減速や社会的政治的リスク、新興国経済の不調、地政学リスクなど――心配のタネは尽きない。これらの展開次第では株価が下落したり調整局面に入ったりする場面も当然あり得るだろう。
ただそれでも最近は、海外でネガティブなニュースがあっても、日本の株価があまり上げない展開が目立っている。たとえば、NYダウ(ダウ工業株30種平均)と日経平均株価の関係。日経平均株価が2000年7月以来の高値を更新した。
2月19日~3月18日の20営業日で日経平均が上昇したのは14日もあるが、そのうち前日のNYダウが下げた日は9日にものぼっている。普通ならNYが下げると東京も下げるケースが多いのだが、その連動性が薄れ、日本株の地合いの強さが際立っている。こうした状況から判断すると、日経平均株価は2万円大台回復の後、ほどなくして2000年の高値である2万833円も更新するだろう。その次のターゲットは1996年の高値(2万2666円)だが、それもそう遠くない時期に更新すると見ている。
この背景には、前述のように日本経済の歴史的な転換があるのだ。日本人は長年の経済低迷、デフレという経済環境の中で、デフレマインドがしみついており、物事を悲観的に見る、あるいは慎重になる思考回路が身についてしまっている。
しかし今や明らかに歴史の流れは変わったのだ。従来の見方に縛られていると時代の変化を見誤り、ビジネスチャンスを見過ごすおそれがある。これから日本経済が長年の低迷から脱して本格復活への道を歩み始めた今、それに対応した経営に転換する必要がある。そのためには、思考回路を変えていくことが求められている。
岡田晃おかだあきら
大阪経済大学特別招聘教授
1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…
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