ご相談

講演依頼.com 新聞

コラム 政治・経済

2011年05月10日

特別寄稿-日本ものづくりの実態・底力と今後の光-

 4月27日に仙台と気仙沼の被災地に入り、被害の状況を見ました。
震災から1ヵ月半たった今でも街は瓦礫で埋め尽くされており、3月11日に東日本太平洋沿岸を襲った津波がいかに凄まじいものだったのか、その恐ろしさは景色の中にはっきりと残されていました。気仙沼漁港では複数の漁船が岸壁に乗りあげたままであり、仙台市若葉区では海沿いに広がる田畑に泥まみれの乗用車が何台も転がったままでした。震災当日、被災者がどれだけ恐ろしい思いをしたかが手に取るようにわかりました。本当にお気の毒で、亡くなった方のご冥福を心からお祈りします。

 今回、海沿いの街の津波被害が深刻であったことはもはや言うまでもありませんが、内陸部にある日本の製造業も大きな被害を受けました。地震の影響で多くの工場の生産ラインが止まりました。高速道路も通行止めになり物流が寸断されました。工場が被災していなくても、原材料や部品を手に入れることができなくなり、出荷中止に追い込まれる企業もでてきました。ダメ押しは計画停電。これには製造業だけでなく多くの食品メーカーも影響を受け、パン、ヨーグルト、納豆などがスーパーやコンビニエンスストアの陳列棚から姿を消しました。

 このサプライチェーン寸断の影響は世界に広がりました。日本製の部品は品質が高いことで知られていますが、通常、企業は競争力を保つために部品の調達先を隠そうとしますし、部品メーカーは守秘義務で納入先を大きな声では言えません。そのため普段はサプライチェーンの実態はわかりにくいのですが、震災後に「部品が届かない」と国内だけでなく世界中から悲鳴が上がったことで、その影響力を改めて知ることになりました。大変なことになったと感じる一方、日本の部品はオンリーワンの高い技術を持ち、世界中に輸出されている。東北が部品の供給基地として世界の製造業を支えているのだという事実は、ある意味誇らしいことでもありました。

 このような付加価値の高いものづくりをますます日本国内で発展させることは大変重要な政策です。しかし、そうした特殊な技術や部品の輸出だけで日本経済を支えていくことはできません。もちろん、こうした緊急事態の下では経営者の意識は日本国内に向かうことになります。東北だけでなく関東でも企業の被災は少なくありませんでしたから、サプライチェーンやリスク管理の見直しも含め、まずは国内基盤をしっかり立て直すことが先決でしょう。来るべき夏の節電対策も喫緊の課題です。業界によっては復興需要もあり、今年は国内事業に注力することになるでしょう。しかし、復興需要は一時的なもので、中長期的に企業を支える収益源にはなりえません。

 震災前の3月に日本は3.9%と新興国で最も高い経済成長率を発表したばかりでした。業績好調で株価が上昇していた企業は、いずれも新興国市場で稼いでいました。日本が内向きになっているこの瞬間でも新興国経済は活発に動いており、その成長を取り込むことが世界経済の大きなトレンドであることを忘れてはいけないと思うのです。

内田裕子

内田裕子

内田裕子うちだゆうこ

経済ジャーナリスト

大和証券勤務を経て、2000年に財部誠一事務所に移籍し、経済ジャーナリストの活動を始める。テレビ朝日系「サンデープロジェクト」の経済特集チームで取材活動後、BS日テレ「財部ビジネス研究所」で「百年企業…

  • facebook

講演・セミナーの
ご相談は無料です。

業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。