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コラム 政治・経済

2010年06月25日

世界経済と中国・東南アジア経済 前編

 今、世界経済は大きく変わろうとしている。
経済は生きている。その姿は時々刻々と変化している。これまでも、我々はそのような経済の変化に翻弄されながらも対応し、成長をしてきた。しかし、今回の変化は特別なものだ。
今、起こっている変化は、過去、我々が経験してきたものとは、そのスケールも意味合いも異なっている。
 端的に言いえば、世界経済の主導権が西から東へ移ろうとしている。それは大航海時代から続いてきた西側諸国によるアジア支配の時代の終わりだ。世界経済はその舞台をアジアに移そうとしている。じつに500年ぶりの大転換だ。

 きっかけは「リーマンショック」だ。
世界金融危機が起こり、欧米のバブル経済が一瞬にして崩壊。欧米経済はそのダメージからいまだ回復できずにいる。
 ご存知の通り、米国は返済能力がなく、本来は住宅など購入できない低所得者にローンを組むことを勧め、そのローンをもとに高利回りの証券化商品をつくりあげて、世界中に販売した。サブプライムローン証券化商品だ。しかし、その中身のデタラメぶりが発覚するやいなや、世界の金融が一斉にパニックを起こし株式市場が暴落した。
 ITバブル崩壊以降、米国経済はローンやクレジットの与信を低所得者まで下げて、借金を推奨しながら消費を促すという方法でGDPを拡大させてきた。だが、その仕組みがリーマンショックをきっかけに破綻。米国経済は急速に冷え込んだ。
 さらに悪いことに、オバマ政権が金融への規制強化に動いたため、借金で消費という米国経済のエンジンは凍結し、それを支えてきた金融業も一気に冷え込んだ。米国の強みであったこの2つの機能が同時にフリーズしてしまったのだ。米国の景気が2007年のレベルに戻るには、まだまだ時間が掛かるであろうことは、米国エコノミストの間でも常識だ。

 一方、ヨーロッパはどうか。EU諸国は、ユーロをドルに対抗する基軸通貨にするという目的を共有し、各国財政改革を進めて成長していた。経済も好調でユーロ加盟国は強固な関係を築いていると思われていたし、ユーロ自体も高く評価されていた。
 しかし、今回の金融危機で何が起こったかというと、それぞれ自国の金融危機を抑えるために、公的資金、財政出動などを決定していくプロセスで、ドイツ、フランスなど各国の考え方は利害が一致せず、EU諸国の足並みがばらばらになったところを世界中に見せつけてしまった。通貨はひとつになっても、財政はまったく別々なのだ。景気が良いときにはわからなかった複数国による通貨統合の弱点が、金融危機をきっかけに露になってしまったのだ。その結果、財政レベルがまったく違う複数の国が同じ通貨を使用するということは、そもそもそれ自体に無理があったのではないか、とユーロへの不信感が高まり、ユーロの下落は続いている。

 さらに由々しき問題は、世界金融危機の原因となったサブプライムローンが組み込まれた証券化商品には、現在まったく値段がつかない状態になっているということだ。危ないローンを基にした価値があるのかないのか不明な証券などわざわざ買う人はいない。当然のことだ。
 思い出して欲しい。日本のバブル経済崩壊後、日本の金融機関が瀕死の状態であえいでいる時、アメリカは強制的に「時価会計」でのディスクローズをせまってきた。それによって日本は資産デフレの悪循環に突入することになり、結果、失われた10年を経験することになった。
 しかし、今回、驚くべきことに、欧米がバブル崩壊に至り、不良債権の評価をしていくプロセスで、サブプライム証券化商品をすべて時価会計の対象から外したのだ。「流動性が極めて低いのでこれは評価のしようがない」というのが欧米金融の言いぶんだ。ずいぶん都合の良い話という印象は拭えないが、馬鹿正直に不良債権処理を行い、デフレスパイラルを引き起こし、景気回復が遅れた日本の失敗に学んでいるという意味ではその措置は正しいと言わざるを得ない。
 そうなると問題になるのは、欧米の金融機関が、どのくらいの損失を抱えているのかが不透明になり、まったくわからないということだ。特にヨーロッパ経済は複雑骨折と言われているほどその破綻の中身は入り組んでおり、それぞれの金融機関の財務状況はブラックボックス状態となっている。このような理由で今、欧米のリスクがまったく見えないため投資の基準を見出せないでいる。

 こうした欧米経済の同時没落は世界にいかなる影響を及ぼすだろうか。ポイントは「リーマンショック」という名のバブル崩壊現象の本質は「キャピタルフライト」だという点である。「キャピタルフライト」は日本語でいえば「資本の逃避」。
 今回のリーマンショックをきっかけに、世界のマネーが欧米から一斉に逃げ出した。お金というのは常に安全な所に向かう性質を持っている。欧米を飛び出したお金がいったいどこに向かったのかというと、それが中国、東南アジアだ。世界のマネーは過去にない規模と勢いでアジアに向かって移動をしているのだ。
 ただ単にお金が安全なところに逃げたというだけでなく、これまで圧倒的な存在であった欧米発の金融のビジネスモデルが、今回のリーマンショックで不完全なものであることを多くの人が悟ってしまった。多くの人が西側の支配が終わり、アジアの時代が始まったと感じているのは、リーマンショックと世界金融危機が、ある意味、欧米の国家運営の失敗を象徴しているからだろう。

内田裕子

内田裕子

内田裕子うちだゆうこ

経済ジャーナリスト

大和証券勤務を経て、2000年に財部誠一事務所に移籍し、経済ジャーナリストの活動を始める。テレビ朝日系「サンデープロジェクト」の経済特集チームで取材活動後、BS日テレ「財部ビジネス研究所」で「百年企業…

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