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2005年07月01日

サグラダ・ファミリア

サッカーが与えてくれた出会い。それは人との出会いばかりではない。場所や物との出会いもある。今回はサッカー留学で5年間(1995~2000年)滞在したスペイン・バルセロナにあるサグラダ・ファミリの話をしよう。

サグラダ・ファミリアはバルセロナを州都とするカタルーニャが生んだ偉大な建築家、ガウディが設計した教会だ。31才から、43年の歳月をこの設計に注いでいる。数々の彫刻芸術があしらわれた100メートル近い8本の塔。その姿は見るもの全てを圧倒するに違いない。更に驚くべきは、この建造物が未完成だということ。建設は100年以上前から始まり、今後、8本の塔の真ん中に倍の200メートル近い本堂が建設される予定。完成は100年先、200年先とも言われている。なんとも気の長い話だ。それでもカタルーニャの人々は慌てず騒がず、こつこつとガウディの思いを積み上げているのだ。

このサグラダ・ファミリアから歩いて15分ほどのピソ(アパート)に私たちは住んでいた。時々、妻とふらっと散歩に出かけては、そびえたつ塔を見上げるのが好きだった。そんな中、気づかされたことがあった。

最初のうちは、本当に完成するのか。この調子ではサグラダ・ファミリアはいつまでたっても未完成のままだろう、とさえ思っていた。ところが何回か通っているうちに考えが変わったのである。極めて少しずつだが変化する姿。完成という遥か遠い目標に向かって少しずつ近づいているのである。そんな塔を見上げながら、心に浮かんだのが……。

「あー、どんなものでも完成しないものなんてないのかもしれない。
時間をかけて、一つ一つ積み上げていけば必ず完成する。時間って可能性なんだ」

当時、車椅子のサッカー監督になる目標に向かって挫折や失敗の連続だった私はサグラダ・ファミリからメッセージを送ってもらった。

もう1つこの教会に纏わるエピソードがある。バルセロナに住み始めてひと月ほどのことだ。スペイン語学校のクラスメイトから、ライトアップされるサグラダ・ファミリアの話を聞いた。

「クリスマスシーズンだけ、夜になると緑色の灯りでライトアップされるのよ。 まゆみ(妻)と一緒に行ってみたら。きっと感動するわ」

早速、妻と出かけてみることにした。夕方、まだ陽が沈まないうちにピソを出発。途中、自転車屋さんで車椅子のタイヤに空気を入れてもらい、少し遠回りをしながらサグラダ・ファミリアに向かった。意識して時間をかけたのにもかかわらず到着時には、まだライトアップはされていなかった。

仕方なく近くのカフェで時間を潰して陽が暮れるのを待つことに。
実はエピソードの核心はここから始まる。カフェに向かう途中、様々な種類のくじを売っている店を発見。そこで、私たちはキニエラというサッカーくじをやることにした。日本で言うtoto。15試合を予想して12試合以上当たると配当金がもらえる。全部当たれば億万長者になるチャンスもある。妻と私はキニエラの用紙をもらいカフェで勝敗予想に熱中した。時間の経つのも忘れて……。

そして、全ての予想を終えた時、時計を見てビックリだった。8時5分前だったのだ。くじの店は8時には閉まってしまう、せっかく予想したキニエラを申し込めなくなる可能性がある。私たちはあわてて会計を済ませ外へ出た。それから、数秒後のことだ。妻の足が止まり、「見て、見て」と言って指をさしたである。

そう、そこには緑色の灯りで照らされたサグラダ・ファミリアの姿があった。

私たちはキニエラのことはすっかり忘れてサグラダ・ファミリアに吸い寄せられるように歩いていた。心が震えるような美しい時間を与えてもらったのである。

それから2日後……。開いた口が塞がらないとうはこういうことを言うのだろう。もしも、キニエラを買っていたら15試合中、14試合が的中、配当金額はおよそ5000万円だった。その後、しばらく夫婦の会話がなくなったのは容易に想像してもらえるに違いない。

でも、この話は、これでは終わらない。次回をお楽しみに!

羽中田昌

羽中田昌

羽中田昌はちゅうだまさし

サッカー解説者

サッカーの名門・韮崎高校にて2年連続全国大会準優勝。韮崎高校の黄金期のエースとして、その名を轟かせるが、高校卒業後、交通事故に遭い、脊髄を損傷、下半身不随の生活を余儀なくされる。その後、県庁に9年間勤…

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