ふわふわしたお正月ムードが落ち着き、日常を取り戻したこの時期。本当の意味での一年の始まりはもしかしたら2月からなのかもしれないな、と、改めて気を引き締めている心境です。そういえば昨年の同じ頃に、同じような心境でコラムを書いていたような気がします。
年が明けてふわっとした気分のまま何となく過ごしていると「そんな曖昧に生きてちゃ駄目だよ」と誰かから諭されるように、私はいつも何かの形で人生の課題を頂くんです。それは天からの課題なのか、私を見守る守護からの課題なのか…よくわかりませんが。とにかくこの時期になると、自分という人間や取り巻く環境を見つめ直し、強い意志決定をして進んでいかなければならないと考えさせられる出来事が起こります。「毎年、毎年、色んなことがあるなぁ」と思わず溜息も出そうになってしまいますが、私の人生にとっては起こること全てが必然のはず。必ず乗り越えて、その経験を無駄にしたくないと思います。
時期はさておき、皆さんもきっとどこかのポイントで大なり小なりそんなようなことがあるのではないかと思います。その時皆さんはどんな方法を用いて前へ進めるための目標設定をなさっているでしょうか? よく言われることですが、成功へと進んでいくためには、その物事に対し綿密で周到な段取りを組むことが9割、あとは機が熟せば瞬間最大のパフォーマンスが1割の比率で必要であるとか。私もまだ人生修行中の身でありますが、少ない実体験を通しても、9割と言われる”段取り”の重要性は痛感しています。こうなれば、ああなる。ああなれば、こうなる…。期限が切られるその日に向けて何度も何度もリハーサルとシュミレーションを重ねてデータを取って行き、あらゆることに対応できる準備をする。その自信の上にはじめていいパフォーマンスが成り立ち、良い結果が出る。
道理はよくわかっています。理論では簡単に進められそうですが、想定に想定を重ねても不測の事態というものが起こり、それを挽回しようと必死になっていると自分が洗濯機の渦に巻き込まれている状態に。最近ある方ととある議題についてお話ししていたら、この洗濯機の例えを用いて説明して下さいました。なるほど確かに。「洗濯機は外から見るから汚れが落ちているか、脱水が出来ているかがわかる。洗濯機の中に入って渦に巻き込まれてどうすんねん。何もわからんやろ。」と。進める上では、自分の立ち位置も気にしておく必要があります。もしわからなくなれば、「立ち位置が違うぞ」と教えてくれる協力者もいてもらいたいものです。
ここまでつらつらと思うままに書き進めてきましたが、私が今、改めて言いたかったことは、「自分の人生だから、誰かがどうにかしてくれるものじゃなく、自らが責任を持って切り開いて進めていくものだ」ということです。何を今更?と思われるかもしれませんが、いつも講演で「夢や目標達成の大切さや思考法」をお話している私が、こと自分のことになるとこんなに当たり前のことなのにいつのまにか他力本願になってしまっていたことに、改めて気づかされた出来事がありました。
競技をしていた頃を振り返ってみれば、私は前述の観点から見るとある意味”ラク”だったなぁとつくづく思います。オリンピックに出たいという夢の設定は子供の頃に自分の意志でしましたが、頑張って身体を鍛錬して実力がある程度のランキングまで上がってくると、そこからは自動的に、徹底管理体制が整った強力なオリンピック支援プロジェクト(虎の穴?)の部署に配属されるような仕組みになります。
その部署はオリンピックに向けて特化した推進ノウハウが整備され、トップのコーチが立てる段取りは綿密で周到でした。私を含めそこに配属されている者は、その段取り通りに進んで行けているかいないかをチェックされ、そのチェックに引っかからないように個人を高め、引っかかれば必ず修正して速やかに追いつくように持って行かれます。このようにしてひたすら自分の技術を磨くことに集中しました。外部からのプレッシャーがあったかどうかさえも知らない程徹底して守られた特殊な環境であったと思います。
それを今は、当たり前のことなんですが、全て自己管理下において出来なければなりません。私は自分自身のために段取りを組むコーチの役割もする訳です。今の私はきっと甘く、ゆるくなっていたんでしょう。今自分がいるのはスポーツの様にわかりやすくワールドカップだとかオリンピックなどという目標達成の期限が切られる世界ではないので、より一層自分のチェック機能を高めておかないと停滞していても気づかないなんてことになるわけです。自分で目標を決めたら、自分でその進行度合いもチェックし、自分に足りないものを分析し、それを克服する手段を考え、実行する。その繰り返しを、自分で管理する必要があります。自分自身のチェック機能の甘さを改めて考えることがあり、今回、素直に胸のうちをコラムに綴りました。恥かしながら、スポーツという特殊な環境から引退して、社会から学ぶことが今もたくさんあります。
日本の代表選手として世界で戦っていたときも、その時々で壁にぶつかり常に選択の連続で、例え苦しくても、その後の結果、つまりメダルを取るという夢のために、苦しい道も選択してきました。それでも結果を得られたときの感動は筆舌し尽くしがたいもので、だからこそ、決して後悔をしない生き方をしてきたと思います。
だから思うんです。「何となく流されながら過ごしていたら、何となくの幸せしか感じないし、何となくの感動しか得られない」と。もし皆さんが、自分のチェック機能の甘さを感じたときは、「何となくの感動や人生」を自分は本当に選びたいのか、と心に問うてみてください。私も迷った時は、一度立ち止まってこの言葉を心に問います。自分を進ませたいと、そんなことを思う今月の私です。
武田美保たけだみほ
アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト
アテネ五輪で、立花美哉さんとのデュエットで銀メダルを獲得。また、2001年の世界選手権では金メダルを獲得し、世界の頂点に。オリンピック三大会連続出場し、5つのメダルを獲得。夏季五輪において日本女子歴代…
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