オリンピックのことを書こうかと迷いましたが、それは次に取っておくことにしました。それよりも今回はどうしても皆さんと共に考えたかったことがあります。子供たちの学校での”いじめ”について、です。
おそらく多くの子育て世代のお父さん、お母さんは、先日滋賀県大津市の中学校で明るみに出たいじめの問題に対して、注視されていたのではないかと思います。
いじめ被害者の生徒さんの自殺と学校でのいじめの因果関係を、あくまでも否定する学校側と教育委員会。アンケート調査でかなりセンセーショナルな内容が子供達の中から挙がってきていたにも関わらず、それを公表せず、そして「いじめに気づかなかった」と記者会見で話す校長。勇気を振り絞っていじめが行われていることを報告しに行った女子生徒の話を聞いて現場に駆けつけてはみたけれども、本人たちの「じゃれていた」「喧嘩をしていた」という言葉だけでいじめではなく喧嘩だったと判断した教師、そして思わず耳を疑うような残酷過ぎるいじめの内容…。
そのような取り上げ方を大半のメディアがしていましたので、この報道を単純に受け取れば、私ははっきり言ってこの学校の先生方に怒りを覚えます。「どこまで子供を見る目が節穴なんだ!」と。
思春期の年頃の子どもが、加害者生徒を目の前にして「僕はこの人にいじめられています」だなんて、本当のことを言う訳がないじゃないですか。私もここまでひどくないにしても、少しの期間、いじめの対象になったことがあります。その時のことを思い出すと、例えば先生にいじめの相談をしようものなら「ちくっただろ。とキレられ、さらにいじめが激しくなるんじゃないか?」という恐怖観念や、親にも「自分は友達も多くて、付き合いもうまくやってるよ」と格好をつけていた自分の記憶があります。
だけど、私が救われたのは、言わなくとも気づいてくれた親がいたことです。「ちくっただろ」と言われなくて済む対処方法を一緒に考えてくれて、対処方法の練習までして、だからこそ私は現場で毅然と一人で立ち向かえました。
いじめがエスカレートするメカニズムも親から教えてもらいました。「最初のきっかけは些細なことだけど、いじめが始まっていくといじめられている側の反応が面白くなってきて、加害者たちは『あいつ、あの時こんな顔だったよな』とか、『変な声出してたよな』とかを言い合い、誰がどれだけその話題に面白みを出せるかの競争になっていくんだ」と。恐ろしい実態です。悪いことをしている意識がいつの段階からか消えていくんです。
多くの専門家や番組出演者がこの件についてコメントをしていましたが、その中に「子供を守るために、無理に学校に行かせないのも手の一つだ。究極、転校をさせたりして子供をそこから逃げさせることも有効だ」というものもありました。一理あります。もう一方で、「立ち向かい、解決すべきだ。親や先生だけに言うことでは解決しないこともあるが、それでもできるだけ多くの大人や関係者に話し、それを大事(おおごと)にしていくことで、動かないものも動かざるをえなくなる」ということを話されている方もいました。これについても共感します。
先ほど「報道を額面通り受け取れば」と注釈をつけさせて頂いた上での私の見解を述べさせて頂きましたが、一方で、現場の先生方の苦しさや対応の限界があることももっと理解されなければならないと思っています。ある番組で北野武さんは「いわゆるモンスターペアレンツと呼ばれる親の出現で、生徒に対する叱り方の加減があまりにも難しくなり、ちょっと注意しただけでも体罰と言われる。先生方は手足をロープで縛られて身動きがとれない状態で、子供達に善悪を教育しろと言われているようなものだ」とおっしゃっていたそうです。
また、ネットの普及でいじめがより陰湿で実態を掴みにくくなってきているのも追い打ちをかけています。昔のようにいじめっ子のリーダー的存在はおらず、誰の指示ということもなくメールでことましやかにターゲットが決まっていきます。そしていじめる気はないのに、「それに関わっていないと自分が次のターゲットになるのではないか」という恐怖で皆に同調するうちに、いつの間にか加担しているという複雑さ。
とにかく何年も前から同じようないじめの事件が起こり、その度に同じ議論がなされている気がします。
私は思います。子供の社会にいじめは必ず起こりうるのですから、教育委員会の学校に対する評価基準を”いじめや問題のない学校が良い学校”ではなく、”いじめの事例をいかに早く察知し、事例が挙がった段階でどう取り組み、どのように解決に導けたか?”という中身を評価する基準にすれば、学校側が隠ぺいしようとする心理を抑制できるのではないかと。
もちろんこれまでも教育が目指してこられた形、例えば、先生の授業が魅力的で子供達が勉強を楽しいと思えたり、熱中できる何かを持つことでいじめに目もくれないような環境、雰囲気作りを学校側がしていくことも継続しつつです。これを2本立てで考えていけないものか、と思うのです。
私も子供を持つ親となりました。無視できない問題です。「うちの子に限って」はないと思います。被害者にも、そして加害者にもさせてはいけないと心から思います。まわりの大人の重大な責任ですよね。子供を見つめ、変化に気づき、いじめの芽を摘む。難しいことですが、大人の一人一人がこれに対する責任を持つべきであると肝に銘じます。
武田美保たけだみほ
アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト
アテネ五輪で、立花美哉さんとのデュエットで銀メダルを獲得。また、2001年の世界選手権では金メダルを獲得し、世界の頂点に。オリンピック三大会連続出場し、5つのメダルを獲得。夏季五輪において日本女子歴代…
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