2011年のJ1リーグは、柏レイソルの優勝で幕を閉じました。J2から昇格してきたチームが──彼らの場合は昇格というよりも復帰ですが──1年目でチャンピオンになったのは、史上初めてのことです。
レイソルは優勝にふさわしいチームでした。それぞれの選手がピッチ上でハードワークを怠らず、チームとしてのまとまりもある。得点をした選手がベンチの控えメンバーと抱き合うのは、先発とサブが一体となって戦っている何よりの証左です。すべての選手が、100パーセントの力を発揮していたと言えるでしょう。
ところで、100パーセントとはどんなプレーをする意味のでしょう?
選手に求められるものを「100」とすると、「50」と「50」に分けることができます。
ひとつは、チーム戦術のなかでその選手に与えられた役割です。ディフェンスの選手であれば、まずは失点をしないように心がける。どれほど素晴らしい攻撃参加を見せても、チームが負けてしまったら評価はできません。こちらはベースとしての「50」です。
もうひとつは、その選手なりの個性を発揮することです。11分の1として課せられた役割を果たしているだけでは、その選手を使う意味が薄れてしまう。人それぞれ特徴があるわけですから、自分なりのストロングポイントを出さなければならない。
できないことをやれ、などと言うことはありません。身長が高くてヘディングが強ければ、空中戦では絶対に負けないようにファイトする。スタミナに自信があるなら、周りの選手のぶんまで走るぐらいの気持ちを表わす。こちらはプラスアルファとしての「50」です。
11人の選手がプラスアルファの個性を見せてくれれば、そのチームは色を持つことができる。独自の強みがピッチ上に描かれていくわけです。「よし、ここは思い切って攻め上がるぞ」とか、「ちょっと距離があるけれど、シュートを狙ってやる」といった能動的な意思に基づいたプレーには、サッカーができる喜びや楽しさが自然と表れているものです。躍動感がありますから、観衆もワクワクします。
会社の業務も同じではないでしょうか。分かりやすいのはサービス業でしょう。たとえばレストランなら、開店前に掃除を済ませてテーブルをセッティングして、時間どおりにお店を開ける。この時期であれば、お客さんから上着を預かり、テーブルへ案内する。メニューを渡し、オーダーをとる。
こうした一連の流れは、サッカーチームにおける「ベースとしての50パーセント」です。マニュアルを読んだり、先輩従業員の接客を見ていれば分かるもの。言ってみれば、最低限の仕事でしかない。この時点ではまだ、そのレストラン独自のプラスアルファを提供することはできていません。
レストランの付加価値と言えば、提供される食事の味が何よりも重要でしょう。しかし、どれほど腕利きのシェフがいても、ホールで接客にあたる店員が気配りに欠けていたら、お客さんに心地好い時間を過ごしてもらうことはできません。ホールの店員と厨房が連携をして、タイミングよく料理をサーブする。飲み物がなくなりそうな頃を見計らって、追加のドリンクを聞く。お客さんが何を求めているのを先回りすることで、快適な空間が生まれていくと思うのです。
シェフが心を込めて料理を作り、ホールの店員はお客さんへの配慮を欠かさない。それぞれの持ち場で自分なりの仕事を追求することで、そのレストランだからこそ味わえる料理と時間を楽しむことができるはずです。
サッカーに話を戻すと、ここ最近はベースとしての「50」が必要以上にフォーカスされている気がします。監督のイメージや指示、練習でやってきたことにとらわれてしまい、私からするとマニュアル化されたような選手が見受けられる。「あ、あそこに出すな」と思ったら、本当にそのとおりにプレーをする選手が、残念ながら少なくありません。ベンチにいる監督に、コントローラーで遠隔操作されているような選手が。
これはもう、指導者のオーバーコーチングと無関係でありません。上司と呼ばれる立場にいると、若い社員の仕事ぶりに口を挟みたくなる場面があると思います。ただ、声をかけるまえに一度考えてみてはどうでしょう?上司は教えることに、部下は教えられることに慣れてしまったら、どんなジャンルの仕事でも画一化されてしまいます。独自の色は生まれてこない。
部下にはどんどんチャレンジをさせて、「自分なりの50パーセント」を上積みできるように働きかけていきましょう。優れたチーム、優れた企業には、失敗を恐れない勇気を持てる雰囲気があるものです。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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