この時期になると、私は8年前の2004年を思い出します。アテネ五輪代表監督として、本番を目前に控えていたからです。
グループステージの対戦相手は、イタリア、パラグアイ、ガーナでした。いずれ劣らぬ強豪揃いですが、五輪は16か国参加の大会です。ワールドカップに当てはめれば、いきなり決勝トーナメントから始まることになります。アウトサイダーがいるはずはありません。厳しい戦いが待ち受けるのは想定していましたから、組み合わせに一喜一憂することはありませんでした。パラグアイが銀メダル、イタリアが銅メダルを獲得するわけですから、振り返ればタフなグループだったとは思いますが。
ロンドン五輪の日本は、スペイン、モロッコ、ホンジュラスと同グループとなりました。印象としては悪くないですね。スペインはともかく、モロッコとホンジュラスとの争いで、2位をつかむ可能性は十分にあります。
この時期の監督は、選手の絞り込みで頭がいっぱいです。関塚隆監督も、様々な角度から検討を重ねているに違いありません。
五輪の登録メンバーは、ワールドカップより5人少ない18人です。2チーム分に満たない人数です。そのなかで、グループリーグだけでも3試合、メダルを狙うなら6試合を戦わなければならない。
さらに加えて、日程は非常にタイトです。我々も8月12日、15日、18日と、1週間で3試合を戦いました。第1戦から第2戦の間には、移動もありました。心身ともにタフでなければ乗り切れない舞台です。
皆さんが気になるのは、選手の選考基準でしょう。私自身は「スペシャリスト」と「ユーティリティ」のバランスを重視しました。 スペシャリストとは、言うまでもなく際立った特徴を持つ選手のことです。高い。速い。ドリブルがうまい。試合の流れを変えることのできる特徴を持った選手は、可能な限り揃えたいところです。
グループリーグで対戦する3か国だけでも、特徴はそれぞれに異なります。スペインが嫌がることと、モロッコが嫌がることは違うわけで、相手の強みと弱みを分析したうえで、必要なタレントをピックアップしていくことになります。
ユーティリティな選手は、人数の少なさをカバーするためにも欠かせません。スタメンのなかにそうした選手がいれば、選手交代をしなくてもシステムを変えることができる。ユーティリティな選手がいることで、18人が19人にも20人にもなる。複数のポジションができる選手は、それだけ価値が高いのです。
もうひとつのポイントは、言うまでもなくオーバーエイジです。アテネ五輪代表には、3人のオーバーエイジを加える予定でした。GK曽ケ端準、MF小野伸二、FW高原直泰です。
小野と高原は同じ静岡県出身で、若年層から旧知の仲です。中学生年代から、代表チームでともにプレーしている。お互いの特徴は熟知しています。どちちもヨーロッパでプレーしており、選手として脂が乗っている時期でもありました。
オーバーエイジの合流は大会直前です。じっくりとコンビネーションを構築する時間はない。それだけに、すでに熟成されている彼らの関係を、チームへ持ち込もうとしました。残念ながらメディカル的な問題で、高原選手の招集は叶わなかったのですが……。
私自身はチームを指揮した当初から、本大会でオーバーエイジを使うつもりでいました。来るべき招集に備え、オーバーエイジの選手を国内合宿に招集したこともあります。あらかじめコミュニケーションをとっておけば、いざチームに加わったときにスムーズに溶け込むことができるからです。同時に、ワールドカップや五輪の経験談を語ってもらい、23歳以下の選手たちを刺激する狙いもありました。
オーバーエイジに関する議論で、「時間がない」という現状が良く聞かれます。しかし、時間がないのはあらかじめ分かっていることです。「時間のなさ」を踏まえたうえでどのようにチームをマネジメントするのかが、五輪の男子サッカーではきわめて重要になるのです。本気でメダルを狙うのであれば、オーバーエイジは不可欠なのですから。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…