格の違いというものを、存分に見せつけた2試合でした。6月3日と8日に行なわれた、ブラジル・ワールドカップアジア最終予選です。アルベルト・ザッケローニ監督率いる日本は、オマーンを3対0、ヨルダンを6対0で退けました。
しっかりと調整できれば、これぐらいはできる──2試合を通じて、私が抱いた感想です。
日本は5月24日にアゼルバイジャンとテストマッチを行ない、その後も海外組は国内でトレーニングを積んできました。数日前に集合する単発のゲームでは抜けきれない時差も、今回は関係ありません。
コンディションを整える時間があり、コンビネーションを深める時間もある。ホテルでずっと共同生活をしているから、選手同士で話す時間もたっぷりある。
練習を終えて食事をしながら、「あの場面はこうやるべきだったかな?」とか、「こういう選択肢もあったよね」といった話が、実はとても有意義なのです。練習を重ね、互いに意見をぶつけ、摺り合わせをしてピッチに立つ。
代表チームはそこまでの時間的余裕を持ちにくいのですが、今回は3試合が集中的に行なわれるスケジュールです。しかも、オマーン戦とヨルダン戦はホームの連戦だったため、移動もありません。じっくりと腰を据えて戦うことができる組み合わせを、確実に生かすことができたのです。
十分な調整期間があったとはいえ、海外クラブに所属する選手たちのプレーは圧巻でした。ヨルダン戦でハットトリックを成し遂げた本田圭佑にしても、香川真司や長谷部誠にしても、普段は”助っ人外国人”という立場です。
練習からアピールをしなければいけないし、ピッチ上では自分なりの違いを見せなければいけない。タフな環境に身を置いている彼らのプレーには、人間としての芯の強さが感じられました。勝負どころで物怖じせず、持てる力を発揮できる人間力があります。
会場の力も大きかった。埼玉スタジアム2002は、2試合とも6万人を超える大観衆で埋めつくされた。アウェイチームのサポーターはごくわずかで、ほとんどすべての人が日本に声援をおくる。日本がボールを奪えばスタンドが沸き上がり、ゴールに迫ればさらにボルテージが上がる。
アウェイチームにかかる精神的重圧は、相当なものだったでしょう。これだけプレッシャーをかけられると、平常心ではいられません。サポーターの勢いを加速させるように、どちらの試合でも前半のうちに先制点を奪ったのも大きかった。
埼玉スタジアム2002は、その名のとおり2002年の日韓ワールドカップの開催にあたって造られたスタジアムです。建設にあたっては、陸上トラックのないサッカー専用とし、6万人を超える収容人数に強くこだわったと聞きました。
歴代の代表監督は、このスタジアムを好んで使っています。私がコーチを務めたトルシエ監督も、ジーコ監督も、現在のザッケローニ監督も、大一番は埼玉スタジアム2002で戦う。ホーム&アウェイの魔力を味わってきた彼らからすれば、アジア有数とも言えるこの舞台なら相手を震え上がらせることができる、と考えるのでしょう。日韓ワールドカップから10年が経ちましたが、いまもこのスタジアムは日本サッカーを支えてくれているのです。
いずれにしても、まだ2試合が終わっただけです。日本はまだ、何も手にしていない。12日に行なわれるアウェイのオーストラリア戦は、チームの真価が問われる一戦となるはずです。
チームとして勝利を目ざすのはもちろんですが、個々の選手には「オレはこういうことができる」とか、「オレはこれからも成長していくんだ」という気概を見せてほしい。チームが最終予選を突破したとしても、ワールドカップに出場する選手が決まるのは大会直前です。
現在の自分に満足している選手は、やがてライバルに取って変わられてしまう。何よりも、さらなる高みを目ざす姿勢を個々が持ち続けることで、チームの可能性は拡がっていくのですから。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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