2月と言えば、キャンプの季節ですね。ひたむきに汗を流す選手たち姿をみると、新しいシーズンの幕開けを実感できます。プロ野球のキャンプに比べると、Jリーグは日程的にコンパクトです。1週間ほどで終えるチームもあります。平均すると2週間ぐらいでしょうか。
コンサドーレ札幌やベガルタ仙台は1か月近くをキャンプ地で過ごしますが、これは雪国であることと無関係でありません。各クラブの監督は、開幕から逆算して「この時期にはこれができるようにする」といったプランを立てます。プランに沿ってチームを仕上げていくためには、スケジュールをきちんと消化していきたい。
また、北海道にはJリーグのクラブがコンサドーレしかありません。ベガルタにしても、同じレベルのクラブと地元で試合をするなら、モンテディオ山形しか選択肢がありません。J1、J2のクラブが集中している関東圏のように、地元にいながら練習試合ができる環境ではないのです。トレーニングと練習試合を効果的に織り交ぜるためにも、キャンプ地で長く過ごす必要があるのでしょう。
では、キャンプを行なうメリットとは何でしょうか?
身体が動きやすい温暖な気候のもとで、長いシーズンを戦い抜くための体力を身につける。集中的にトレーニングを行なうことで、チーム戦術を浸透させる。こういった実務的な目的に加えて、コミュニケーションを深めることもキャンプは大切な位置づけです。
気心の知れた友人と旅行へ行った際に、意外な一面に触れたという経験をお持ちの方は、少なくないと思います。お互いに何でも話せるような間柄でも、ひとつ屋根の下に泊まらないと見えないこと、気づかないことはあるものです。サッカーチームも同じです。衣食住をともにすると、それぞれの選手の色々な面が見えてきます。
代表チームが短期間でも合宿を開くことを聞いて、「たった数日集まったぐらいで、何もできないだろう」と思う方がいるかもしれません。様々なカテゴリーの代表チームに携わった私自身の経験に照らせば、数日間の練習で飛躍的にチームが成長することはありません。非日常の刺激を受けられる海外遠征はまた別ですが、国内合宿では刺激を与えるにしても限界があります。
それでも合宿を行なうのは、選手同士の理解を深めてほしいからです。朝、昼、夜と3度の食事をともにして、同じ宿泊先で過ごす。一日目より二日目、二日目より三日目と緊張がほぐれ、声を掛け合う回数が増えて精神的な距離感が近づいていく。
コミュニケーションの深まりは、コンビネーションにも好影響を及ぼします。お互いを知ることで、ピッチ上でも会話が増えていくのです。2、3日の合宿でも、はっきりとした変化を読み取ることができます。
代表チームとは違って、Jリーグのクラブは継続的に活動をしています。しかしながら、シーズンごとにチームは変わります。新加入選手を迎えますので、シーズン前のキャンプでコミュニケーションを深める必要があるのです。
選手同士だけではありません。監督とスタッフにとっても、キャンプは大切なコミュニケーションの機会です。
Jリーグの監督を務めるほどの方なら、自分の仕事にプライドを持っています。責任感も強い。けれど、自分ひとりですべてをやることはできません。スタッフに仕事を分担していくほうが、結果的に組織は機能します。
なでしこジャパンの佐々木則夫監督は、スタッフに仕事を振り分けることに長けている指導者です。女子ワールドカップやロンドン五輪での成功は、スタッフに権限を委譲することも要因となっていました。彼との共著『勝つ組織』に詳しいですので、ご一読いただければ嬉しいです。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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