欧州チャンピオンズリーグの決勝戦が、史上初めてドイツ勢同士の対戦となりました。バイエルン・ミュンヘンがバルセロナを、ドルトムントがレアル・マドリードをそれぞれ撃破した準決勝は、センセーショナルなトピックスとして全世界を駆けめぐりました。
とりわけ衝撃的だったのは、バイエルン対バルセロナ戦でしょう。ホームの第1戦で4対0の大勝を果たしたバイエルンは、敵地カンプ・ノウでも3対0で快勝したのです。あのリオネル・メッシが本調子でなかったとはいえ、現代サッカーをリードするバルセロナを完膚無きまでに叩きのめした戦いぶりは、バイエルンの完成度を改めて際立たせるものでした。
バルセロナのサッカーは、攻守一体と言われています。選手同士の距離が近いので、ボールを失っても複数の選手でプレッシャーをかけることができる。そうやって敵陣でボールを奪い返し、再び攻撃を仕掛けることに特徴がある、と。
相手チームからすれば、奪ったボールを自陣でバルセロナに渡してしまうことになります。敵陣へ抜け出せない展開は息苦しく、心身ともに疲労感を強めます。
バイエルンは、違いました。バルセロナからプレッシャーを受けた選手が、局面を打開できる技術を持っていたのです。バルセロナは敵陣で多くの選手がプレーしますので、自陣は手薄になりがちです。相手側は最初のプレッシャーを切り抜ければ、一気にチャンスがひろがります。カウンターアタックが機能します。長い距離をスプリントしたり、スペースを作り出したりする動きを惜しまなかったバイエルンは、バルセロナのプレスを見事に打ち破ったのでした。また、バルセロナというチームに欠けている高さを、最大限に生かしたのも勝利につながりました。
人気と実力を兼備するバルセロナとレアル・マドリードを倒したことで、「ドイツの時代が到来か」という報道も見受けられます。
ドイツ勢はいきなり強くなったわけではありません。1994年のアメリカ・ワールドカップ、4年後のフランス・ワールドカップで2大会連続ベスト8に終わったことで、彼らは自分たちの足元に目を向けたのです。
ワールドカップで8強にとどまっていた一方で、1996年の欧州選手権では3度目の優勝に輝いています。「2大会連続ベスト8に終わった」と書きましたが、著しく低迷していたわけではないのです。
しかし、他ならぬドイツの関係者は、世界のベスト8という結果に満足しなかったのでしょう。若年層の育成を練り直し、優秀な指導者を当てました。
地道な強化はゆっくりと実を結んでいきます。2009年には、U-21(21歳以下)年代の欧州選手権で初優勝を飾りました。バイエルンで活躍するマヌエル・ノイヤーやジェローム・ボアテング゛は、当時の主力メンバーです。レアル・マドリードでレギュラーをつかんでいるメスト・エジルとサミ・ケディラも、若年層からしっかりと育てられてきた才能です。
バルセロナの選手が主力を担うスペイン代表も、U-17、U-19、U-21といったカテゴリーで結果を残してきました。2010年の南アフリカ・ワールドカップにおける初の世界制覇は、そうした長い道のりの結実だったのです。バルセロナやレアル・マドリードが強いから、スペイン代表が世界のトップクラスに君臨しているわけではないのです。
企業の人材育成も同じでしょう。新入社員の中には、のみ込みの早い者がいれば、与えられた仕事を消化するので精いっぱいの者もいます。ただ、それぞれに長所を秘めているのは間違いありません。大切なのは個々の適正を見極め、伸ばし、戦力として育てていく根気でしょう。上司に求められるのは、中長期的なスパンで組織を磨き上げていく視点に他なりません。
そうやって考えていくと、日本サッカーの現状に危機感を覚えます。サッカーピラミッドの頂点に立つ日本代表は、ワールドカップで上位進出を狙えるほど充実しています。しかし、足元となる若年層では、アジアの戦いで苦戦を強いられています。
バイエルンやドルトムントの躍進を「さすがドイツだ」のひと言で総括するのではなく、なぜドイツが世界のトップクラスであり続けるのかを検証する。日本代表が放つ輝きに見とれていたら、世界はもちろんアジアからも取り残されてしまいかねません。
日本企業も日本サッカーも、世界の舞台で戦っていくことは共通します。順境か逆境かを問わず、人材育成に情熱を注いでいきたいものです。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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